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J1第1節 サンフレッチェ広島vsベガルタ仙台 ゲームレビュー

-希望の光 発進-

試合前ロッカールームホワイトボードより

スタメン

スライド2

広島は今年から基本システムとして442を採用。新加入選手の起用はジュニオール・サントスのみとなった。一方仙台は新加入選手を6人(昨年特別指定選手として試合出場したアピアタウィア久を含めた数字)スタメン起用した。ただセンターラインはクバことスウォビィクやシマオマテ、吉野、関口など、最前線を除き、昨年のチームの骨格となった選手たちが引き続き名を連ねた。

サンフレッチェ広島のボール保持

ビルドアップ時は2トップ間に川辺が入って彼らの動きをけん制。その手前で青山がタクトを振った。チャンスメイクのシーンではSHが相手SBの手前に立ってピン止めし、その裏に2トップを走らせた。また右SHの浅野は内側に入って相手を引き付けながら外側へ出ることで、空いた内側のスペースをSBやボランチが使ってボールを落ち着かせながら、チャンスを作った。

サンフレッチェ広島のボール非保持


ボールサイドの相手に対する意識が強い442を組んだ。仙台のビルドアップに対して、2トップは左右のCBを警戒。CBに運ばれたらその斜め後ろから追走し、逆サイドへのやり直しを不可能にした。またアンカー化する上原には2トップで左右を挟みながら、ボランチが正面から寄せていった。完全に撤退した時は、サントスがやや下がり目で待ち、ボールを奪ってからのキープ役をこなした。

ベガルタ仙台のボール保持

ボールを奪ってから、1トップへのロングボールでの前進とビルドアップからの前進を使い分ける。皆川にロングボールが入ると、ボランチが後ろで前向きにサポート、トップ下が横サポート、SHがそれを追い越し、皆川は最適なパスコースを選択する。また選手を問わず、カウンター局面で縦パスが入ると、その選手が逆サイドまでボールを展開させるシーンが多かった。縦パスが入ってからの動き出しについては、プレブューのようなものでも触れており、キャンプで取り組んできたことが少なからず出せたということになる。

ビルドアップのシーンではあらかじめCB間に吉野が降りて後方を数的優位確保のための3枚に。そこからの前進はWBに預けるか、アピが運ぶかのどちらかに絞られる。そうして高い位置に運ぶとアンカーになる上原とSHが内側でボールを落ち着かせる。その際、相手SBの目の前に関口、外側にSBが張ることで、その手前側(相手SHの背後)でマルティノスや氣田がフリーになることが出来た。また上原の後ろを吉野がカバーした。

ベガルタ仙台のボール非保持

相手のビルドアップに対して、1トップとトップ下が横一列になった442を形成。選手間の距離を一定に保ち、2トップが中央を消してサイドにボールを誘導する。するとサイドの相手ボールホルダーに対して、SHが横に立って中央への侵入を防ぎ、SBが細かく両足でステップを踏みながらその正面まで寄っていき、縦のコースを塞ぐ。SBとCB間のスペースに入ろうとする相手には、4バックをスライドさせながら、一番近いCBがついていき、空いたCB間はボランチやSHが埋めた。しかしDFの背後に抜ける選手に中盤の選手がついていく手法を取ると、当然それが連続したときにDFラインの手前に空間ができてしまう。そこで仙台は少なくとも二人がその空間を埋めること(ボールと遠いサイド側の選手はやや高い位置にいるのが望ましい)、そしてもう一人がサイドに対して斜め後ろ側に立って相手のパス回しの中心となる青山へのコースを消すことを心掛けた。12分30秒のシーンを例にとる。

広島仙台


このシーンはボールは左サイドから右サイドへ渡ったところ。SBの野上がボールを持つ。対して秋山が前に出て両足を揃えながら正面に立つ。するとその裏にサントスが走り込み、シマオはそれについていく。CB間が空いたので、そこは上原が埋める。空いた中央を埋めるのが相方のボランチの吉野と逆SHのマルティノス。吉野はペナルティーアークの中心あたりを埋め、マルティノスはそれよりもやや高い位置で逆サイドへの展開を最終的に防ぐ役割を担う。また斜め後ろに関口が戻り、青山をちょうど消せるようなポジションをとった。ちなみにこの斜め後ろのポジションを取る選手はサイドでボールを奪った後のカウンターの起点にもなる。これがベガルタ仙台の同サイド包囲網だ。

ただあまりにも多くの選手が相手のDFラインへのランニングについていくと、前線の人数が減り、カウンターや陣地回復を行うのが難しくなる。そこは個々の判断力が求められる。

また相手のポジショニングにより、選手と選手のちょうど間に立たれることもある。その際はどちらもボールを直接奪おうとはせず、ボールホルダーを左右で挟みドリブルやパスの進路を誘導する。その延長線上で他の味方選手が待ち構え、確実にボールを奪い取りにかかった。

試合展開

どちらもミドルゾーンにブロックを構え、落ち着いた入りを見せる。両者仕込んできたビルドアップを行いながら様子見を行った。また相手のバックパスを起点に、CBまでプレッシャーをかけたことも、両チーム共通の点だった。しかし互いに大きなチャンスは作れず飲水タイムを迎える。

この飲水の時間を使って両者が修正を施す。広島はボール保持時に、川辺がペナルティーエリアの角を狙うようなランニングをするようになった。これは仙台が採用する、DFラインへ前向きに走ってくる相手をそのまま中盤の選手が最終ラインまでマークし続ける守備に対し効果的で、仙台のブロックを押し下げ、その手前側にスペースを生み出すことに成功した。そのスペースで青山やCBが右へ左へと配給し、仙台の守備を揺さぶった。

一方の仙台はボール非保持時の振る舞いに修正を施す。クロスに対して空いていたファー側のSBの背中側のスペースをSHが積極的に埋めてケアすることを心掛けるようになった。またSHはその仕事に加えて、ボランチとともにL字を作り、ボールサイドを限定するような働きも行う必要があったことから仕事量が要求された。

しかし飲水タイム明けの直後、25分、シマオマテが退場。急遽関口がボランチに入り、全体も重心を後方に下げた。しかしその5分後に失点。関口がやや前出たことにより背中側のスペースが空き、そこを使われてしまった形。横にいた上原は同サイドCBの吉野にサントスのドリブルコースを誘導する正しい対応をしたものの、吉野は前に出ることができず、フリーでのシュートを許してしまった。

一人減った仙台は、後方からの組み立ての形を変えた。ボランチに入った関口は、最終ラインに落ちることなく、相手の2トップの脇のやや後方でCBからボールを引き出した。ただ後方は広島の2トップに対して同数になる。それで生じるつなぐ際のリスクを回避するために、前方のサイドのスペースへ長いフィードを入れることが増えた。

その後も仙台は失点をそれ以上重ねないよう、低い位置でブロックを組み、前半を1-0で折り返した。

ハーフタイムに氣田に代えて松下を投入。上原とダブルボランチを組み、関口は左サイドハーフに入った。

後半の試合の進め方、交代カードの切り方については、試合後のインタビューで手倉森監督が言及していた。それについて考察しながら、後半の展開を振り返る。

まずは点を取るために、皆川の高さを残して、次は最前線をドリブラーのマルティノスにして、最後は敏捷性の赤﨑にすると、それはビハインドになった時点で頭の中にふわっと描けたものだったし、そのためには両翼の関口や真瀬、石原といったところのパワーが必要だったので、点を取るためのプランがはまったな、と思います。  ※ベガルタ仙台オフィシャルサイトから引用

まず仙台は前半の終盤同様、低い位置にブロックを構えて後半に臨む。奪ったらSHが運んで全体を押し上げ、ボランチの2枚が高い位置で落ち着かせる。ただ追加点を奪われないためにも、無理にボールを繋ぐことはせず、出来るだけ簡単にフィニッシュにいきたい。その考えにおいて必要なのが、クロスのターゲットとなる皆川だった。

しかし同点弾は生まれず。ただこの時間帯、広島の前線からのプレッシャーも弱くなり、ある程度足元でボールをつなぎ、落ち着かせることが出来ていた。そこでサイドに石原崇兆を投入し、さらに最前線にマルティノスを置くことでよりドリブルで押上げを図ろうとした。また石原はボール保持時に松下や上原の隣に入って3センター気味になることで、中盤に安定感をもたらした。

徐々に敵陣でプレーする仙台。それをみて広島は右サイドに柏を投入。大外でドリブルを仕掛け、活きのいい仙台左サイドを鎮圧する狙いがあったように思える。それを見てか、直後に仙台は真瀬を右サイドに投入し、この試合絶好調の関口を再び左サイドに持ってきて、こちらも広島右サイドを押し切ろうとする。

関口がカットインする機会も、石原がチャンスメイクするシーンも増えた終盤。広島も今津を投入し、1点を守りきるプランに変更する。機を見て、仙台は一瞬の隙を突ける赤﨑を投入。疲労で全体が後ろに重たくなったとしても、一つの動き出しでチャンスにつなげられる赤﨑は、こういった試合展開で重宝される。

そうしてアディショナルタイムに生まれた同点弾。石原が絡んだ左サイドで作り、右サイドまで運んで刺す、その狙いが体現されたシーンだった。関口のカットインコースを生み出す真瀬のランニングも見事だった。仙台はその一点を守り抜き、必要最低限の勝ち点1を手にした。

試合結果

サンフレッチェ広島 1 - 1 ベガルタ仙台

得点者:ジュニオール・サントス(広島)、赤﨑秀平(仙台)

印象的だった選手

石原崇兆
加入一年目はライン間の内側でプレーして切り込みながらゴールに絡むプレーを行い、二年目の昨季は左SBでポジショニングを工夫しながらビルドアップに貢献。三年目の今年はそれらの良いところ取りをした役割が任されそうだ。この試合では左SHとSBの両方を務め、立ち位置を工夫しながらチャンスメイクを行った。

ヤクブ・スウォビィク
昨年以上のハイパフォーマンスを見せつけた。55分の連続セーブや、85分の体勢移動しながらのシュートストップなど、至近距離のシュートに対する反応の速さはさすがの一言。チームが一人少ない中で失点を最小限に抑えたのは彼の活躍あってこそ。そしてこの試合最大のハイライトは、89分の得点直後のこと。ピッチの反対側にいたクバは100m越えのロングスプリントで、ベガルタ仙台サポーターの前で歓喜する選手たちの輪の中に飛び込んでいった。チーム愛を感じたシーンだった。

川辺駿
この試合でも持ち味のオールラウンダーさを発揮。相手の出方を見ながらプレー選択を行い、仙台にとって厄介な相手だった。試合後はジュビロ時代にチームメイトだった上原とユニフォームを交換。タイプが似ているだけに、通ずるところがあるのかもしれない。

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