ルヴァンカップGS第1節 横浜Fマリノスvsベガルタ仙台 ゲームレビュー
先日行われたJ1リーグの開幕節で勝利を得られなかった両チーム。今季公式戦初勝利をかけてニッパツ三ツ沢球技場で対戦。
スタメン
マリノスはJ開幕節からスタートを7名を変更。その試合で右SBを務めた岩田智輝はこの試合アンカーに入った。一方仙台はJ開幕節から9人を変更。松下佳貴はこの日が28歳の誕生日。長倉颯はマリノスユース出身で古巣対戦となる。
横浜Fマリノスのボール保持戦術
CB二枚とアンカーの岩田でビルドアップ。岩田は仙台2トップの間に立ち、プレッシャーを牽制した。この3枚でボールを前進させるとサイドでチャンスメイク。渡辺とオナイウがフリーマンを作る、もしくは自らフリーマンになる動きでタメを生み、SHとSB、たまに岩田がそこに加勢し、相手DFラインの背後や選手間のチャンネル狙う。岩田がポジションを移動させた時は、逆のSBがそのポジションをカバーした。フィニッシュに向けては、コンビネーションで相手を内側に寄せてから空いた外側を使ってクロスをあげたり、逆に相手を外側に引き出してから逆サイドに展開したりするなど臨機応変さを見せた。
ボールを奪ってすぐのカウンター局面では、まずオナイウが少し低めの位置で後方からのパスを受け、幅を一目散にとるSHやDF裏に走る前田へボールを届けた。
横浜Fマリノスのボール非保持戦術
2トップとSHが中央のスペースを締めてボールをサイドへ誘導。するとトップ下がボールサイドのボランチをマーク、同サイドのFWがやや下がり目になって、斜め後ろのパスコースを牽制した。同時にその周辺の選手が相手を背中側からチェックし、4バックもスライドしながらラインを上げることで、前線からプレッシャーをかけた。
ベガルタ仙台のボール保持戦術
CBが大きく開き、GKを加えた後方三枚でビルドアップを行う。内に絞るSHや降りてくるトップ下へボランチやSBを経由して縦パスを入れ、それを前向きの選手に落として広いサイドのSHに展開するのが前進をするための第一目標。またそれが出来ない場合、後方でボールをつないで相手を引き付け、主に皆川がSB裏に流れてボールを落ち着かせようと試みた。なるべく繋いで引き付ける、というのはハイプレッシャーでラインを高くするマリノス対策な気もする。カウンターでもトップに当ててから、それを追い越すSHに展開する形が徹底されていた。
ベガルタ仙台のボール非保持戦術
相手のビルドアップに対して前からプレッシャーをかけるときは、CB間をボールサイドのFWが切り、相方のFWがアンカーにつく形でボールサイドを限定。そこからサイドの選手がボールを受ける相手にタイトに寄せ、ボールを奪いにかかった。
攻撃を受けきる撤退守備を行う際は、まずトップ下とトップが横並びになって442に。中央を封鎖する。そこからボールがサイドの相手選手に渡ったらボールサイド包囲網を築く。これはリーグ戦の広島戦でも行われており、メンバーが変わっても変わらずやれることを証明した。ここでその概要を少しおさらい。
サイドで相手がボールを持った場合…
①4バックがスライドしてSBがボールホルダーの縦を切る
②中盤もスライドしてSHがボールホルダーの横を切る
③ボールサイドのFWがボールホルダーの斜め後ろを切る
④中盤から飛び出してDFラインの背後を狙う選手には同サイドのボランチがついていく
⑤その際ペナルティーアーク中心あたりを相方のボランチが埋める
⑥逆SHはやや高い位置をとって逆サイドを使われないようにする
詳しくはリーグ広島戦のレビューに書いたのでそちらを確認していただければ。ただそっちに書き忘れたのが、サイドチェンジされた後の対応。同サイドにブロックをスライドさせるため、逆側にはどうしてもスペースが生じる。相手にそのスペースでボールを受けられた場合、基本は対面するSBがその斜め前に立ち、クロスを上げさせないように距離を詰めることがセオリーになっている。
ゲーム展開と両チーム戦略
序盤からマリノスが高い位置でボールを握り、それを仙台が引いて凌ぐの構図。ボールサイドに人数をかけて攻めるマリノスに対し、仙台は同サイド包囲網を形成する。序盤の仙台はこれで相手のシュートチャンスを減らすことに成功した。しかしマリノスもそれを突破する術を再現性持って表現する。中でも象徴的だったのが15分のシーン。
ボールサイドに人数をかけて攻めるマリノス。セオリー通りに包囲網を敷くが、ボールの斜め後ろにプラスワンを連続して作られ、ボランチと逆SHの間にいる高野へボールが渡る。この選手は左利きで、受けた位置からそのままファーサイドに向けてクロス。ボールは惜しくもオナイウには合わなかったが、このように内側のレーンからクロスを上げられては、逆SHが外側を切って立つ必要もなくなる。仙台がこれを許容するのか、もしくはてこ入れをするのか、今後も見ていきたい。
このようにしてマリノスは仙台のボールサイド包囲網を突破し、仙台を押し込む。その流れから直後に先制点をもぎ取る。クロスにオナイウが合わせた。長倉がよりクロッサーの水沼との距離を詰められていれば、結果はまた違ったかもしれない。
仙台も引くばかりではなく、後方からビルドアップしての前進を試みていた。これはリーグの広島戦と異なった点。長倉の長所を活かすためか、左サイドからの前進が多くなった。しかし上に書いたような形から前進して決定機を作るまでには至らず。仙台はマリノスと対照的に、相手のボールサイド包囲網を突破することが出来ないまま前半の飲水タイムを迎えた。
飲水以降も試合の流れは変わらず。仙台はゴールキックで前方に蹴る回数が増えた。セカンドボールを岩田の脇のスペースで拾い、より高い位置までボールを持っていきたい意図だったと思う。実際に2トップ化した中原と皆川が相手CBを監視しながら、スプリントをして牽制しに行く姿勢も飲水以降は多く見られた。しかしオナイウや高野を中心にフリーマンを作る相手をはめることが出来ず、攻め込まれてクロスを入れられるシーンもまた増えた。ただ失点はせず、1-0のマリノスリードで前半を折り返す。
ハーフタイムに仙台は長倉に代えて蜂須賀、富田に代えて氣田を投入する。蜂須賀はオプションとしての左SBを試す狙い(と監督は語っていたが実際長倉に向けたクロスが増えていたためそれをカバーする狙いもあるかも)で、氣田は復帰戦の富田が前半45分間限定のプレーだったことで投入された。これにより氣田は左SHに。さらに中原が右のボランチに下がり、匠がトップ下、石原が右SHを務めた。
後半開始から仙台は2トップが勢いよく相手CBにプレッシャーをかけ、ビルドアップを妨害する。さらに彼らは自分の列をボールが超えても、前半以上の勢いあるプレスバックを見せた。加えてCBが列を降ろしてフリーになろうとするオナイウにそのままついたり、SHが高い位置で幅をとる相手選手を切るようなプレッシャーをかけたりするなど、工夫しながらマリノスの前進を阻んだ。相手からボールを奪うと、松下や後半から入った氣田と蜂須賀などのキープにより全体が押し上がり、より敵陣でプレーできるようになった。ただマリノスもリードしていることもあって、潔く後退するシーンも増えていた。
64分に2トップを加藤と田中に交代する。元々決まっていた時間での投入だったかもしれないが、ある程度ボールを保持しながら相手ゴールに迫れたこの時間帯に彼らが投入されたことで、より前線の動き出しが増え、結果的に相手陣地に奥行きを作ることができるようになった。しかし同点弾は生まれず。
その後マリノスは70分に仲川、小池、マルコス・ジュニオールを投入。マルコスは列を降ろしながらフリーマンとなり、CBに対してオナイウと連動しながら迷いを生じさせることで、再び試合の主導権を手繰り寄せた。
両者譲らない展開の中、85分にマリノスは渡辺に代えて扇原を起用。岩田と横並びになって、中盤がフラットな442になった。一方の仙台はほぼ同じタイミングで中原に代わり吉野を投入。こちらは動き出しを隈なく続ける前線を一列後ろで支えた。どちらもゴールに迫り、拮抗した展開であったが、スコアはそのまま推移して試合は終了した。
試合結果
横浜Fマリノス 1 - 0 ベガルタ仙台
得点者:オナイウ阿道(マリノス)
印象的だった選手
高野遼
筋肉ガチムチで大外を駆け上がる、個人的に大好きな脳筋サイドバックだと思ってたらそれは大きな間違いだった。この試合では同サイドの樺山を活かすプレーを心掛けるだけでなく、自分と逆のサイドで行われる攻撃にタイミングを見計らってパスコースを創出。周りへの気遣いができるクレバーなSBだった。図で取り上げたシーンのようなプレーで仙台に綻びを生み出した。
蜂須賀孝治
こちらもSB。普段通りの安定感あるプレーで後半からチームを支えた。対人の守備、クロス対応、ボールキープと運びなどプレーのどれもがやはり上質。同じタイミングで入った氣田が特徴を発揮できたのも、蜂須賀の頼もしさがあってこそだと思う。真面目な人柄だが、チームキャプテンとして気負いはしすぎず、この調子でプレー面でもチームを支えてほしい。
平岡康裕
リーグ開幕前のプレビューのような記事で期待する点として書いた、ビルドアップ場面での左足ボールタッチ。それを早くもこの試合で見ることが出来た。ボールを運んでの前進や、中央への楔こそないが、この細かな修正は後方での組み立てを確実にスムーズにする。チームを長年にわたって支えるベテランCBの進化は留まるところをしらない。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?