~主導権~ J1第8節 ベガルタ仙台vs横浜Fマリノス
2020明治安田生命J1リーグ第8節 ベガルタ仙台vs横浜Fマリノス 2020.8.1
8月になった瞬間に本格的な夏が到来。ユアスタで行われたこの月1発目のゲームの振り返りをしていきます。
試合前両チーム状況
ベガルタ仙台(13位)
前節柏戦では5失点で敗北。内容は悪くないながらなかなか勝ち点が取れず、最後は失意のまま終わった7月だったが、8月初めのゲームは希望を持てるものとしたい。負傷者関連ではクエンカが帰国するなど明るいニュースがある一方で、富田の長期離脱も決定した。
横浜Fマリノス(11位)
昨季王者は2020年もその威厳を保てているとは言い難い。ここまで2勝1分け4敗で11位に甘んじている。前節札幌戦では相手のマンツーマン守備に苦しみ負けを喫したがアウェイ連戦2戦目となる今節こそ勝利したい。仲川とエリキが負傷離脱中。また遠藤が前節を以てドイツへと移籍した。
スタメン
仙台はこの試合にここまで使ってきた433システムではなく4231システムで挑む。普段は右ウイングに入っていたジャーメインがこの試合は左サイドに。代わりに右には西村が右に入った。CBにはJ初出場のアピアタウィア久が平岡とコンビを組む。またベンチには2週間ほど故障で離脱していた松下が復帰した。
マリノスはスタメンを前節から3人変えてこの試合に挑む。ここまで負傷離脱していたパクイルギュは開幕戦以来の出場となった。またCBにはいつもの伊藤ではなく松原を起用。遠藤が抜けた左サイドには仙頭が入った。天野はマリノス復帰以降狂気じみた活躍を遂げておりこの試合でも牙をむくのか。
前半ー主導権はマリノスに
横浜Fマリノスは各選手がポジションを入れ替えつつ、スペースを使いながらボールを保持して攻撃に出るスタイルで昨季王者になったチームだ。この日の仙台はその主体的な攻撃を取るマリノスに対していかに失点を抑えつつ攻撃に出ていけるかがテーマ。その中で前半は失点をしないことに注力した内容となった。
マリノスのビルドアップはボランチの片方がアンカー気味でCBと関わり、ハーフレーンに立つその相方や天野を経由して前線にボールを届けるというもの。それに対して仙台はマンマークを基調とした対応を行う。CBからボールが出た先に制限をかける場合はマリノスの中盤3人に対して仙台の中盤3人が寄せる。またボールの出どころに制限をかける場合は、関口が長沢と横並びになって2トップvs2CBの図を作った。しかしながら一筋縄でいかないのがサッカー。マリノスは仙台がとった守備構造を巧みに利用してくる。
マリノスが利用したのは仙台が引いた際のCBの数的優位、また仙台が前から来た際の中盤での数的優位だった。CBがフリーの場合、中盤がプレーを制限され前進するのが難しくなってもそこに預けてやり直しが可能だ。それを何度も続ければマリノス全体が仙台を着実に押し込むことが出来る。また図にあるように関口が出て2CBに制限をかけた際は、マリノス側から見て中盤が一人多くなる。そこにボールが届けば前を向いて一気にチャンスに結びつけことができた。37分にはその形から天野にボールが渡ったが間一髪西村がファウルで止めた。
こうしてビルドアップ時の数的優位を生かして仙台を着実に押し込んで前進したマリノスは、一度ウイングに預けてからペナルティーエリアの角を狙う。この際仙台はサイドバックが大外のウイングまで出て1v1を作り、間のスペースは同サイドのボランチやウイングが降りてカバーした。このカバーはボールをそこで奪い切るというよりかは、相手をタッチライン際に追い込んでクロスの角度を狭めるというものだった。その守備のもと前半は決定機を作らせないことに成功した。一方でこの守備はカウンター起点となるウイングの位置を低くすることを許容したものとも言える。攻撃よりかは失点をしないことを意識したと言い換えることができるだろう。
前半ーカウンター時の狙い
しかし押し込まれてもカウンターに出れるようにと、仙台は事前に策を準備していた。
それがはっきりと表現された35分のシーンをピックアップする。起点となったのは長沢だった。彼はボールを奪った椎橋からフリーで受けると、ワンタッチで前を向いている吉野へ落とす。このクッションで時間ができ、高い位置へ出たジャーメインへ。ボール受けてから少し運ぶと、追い越した石原へと渡し、マリノスCBのニア側のスペースにクロスを送り、長沢がそこで合わせた。
中央の関口や長沢がワンタッチでボランチに落とすプレーや、ニアにクロスを送り込むプレーは前半に何度も取り組まれた。ただマリノスの切り替えもさすがで、関口に出た時点で喜田らが潰し切るシーンがほとんどだった。
このように仙台を押し込み、切り替え時には仙台の狙いを好きにやらせないといったマリノスのペースで前半は進んだ。得点は生まれず0-0で折り返す。
後半ー主導権を握る守備
今日こそユアスタで勝ちを収めたい仙台。ハーフタイムに修正を加え、ややリスクを負いつつ攻撃に転じていく。
特に前半と比べて変わったのはプレスのタイミングだ。前半はウイングのプレスと関口のプレスのタイミングが合わず数的優位を使われたが、後半はバックパスを合図にウイングがSBへのコースをきりながらCBに寄せ、合わせて関口も出るという形をとった。これによりCBにプレスをかけた際にSBへとボールを逃されるシーンが減り、アバウトなボールを蹴らせることで仙台守備陣が再びボールを奪い返すシーンが増えた。ボールを持つマリノスを仙台が主導権を持って術中にはめた。
また撤退時には前半のように中盤に対しマンマークでつくことよりかは、ブロックを構えることを意識していた。前から来ないならとマリノスの両SBは高い位置に出る。それに対して仙台のウイングにはそこまで降りて対応するか、捨てて裏のスペースを狙うかの2つの選択肢が存在し、そこの両者の駆け引きは非常に面白かった。結果的に、SBにウイングがつかないことでマリノス側にチャンスは生まれた一方で、長沢やジャメがマリノス最終ラインの背後を仙台が突くシーンも増加。その際のパクの対応は見事だった。こうして試合はオープンになっていく。これは仙台としては願ったりかなったり、いや狙い通りの展開だったかもしれない。その中で仙台は蜂須賀を、マリノスはオナイウを投入し畳み掛けるが双方得点は生まれず0-0で終盤を迎える。
後半ーアクシデントと失点
78分にマリノスがマルコス含め3枚替えを実施。対して仙台は80分にゲデス、松下を投入すると、2人は投入直後にチャンスを作り出した。しかし数分も経たずしてトラブル発生。クロス対応に入った松下だったが、相手と接触し右膝を痛めてしまう。松下は痛みを抱えながらも戦列に戻ったが、これを見て木山監督は途中で入った真瀬を右SBに、ゲデスが右SHに、柳がボランチに入り、松下をトップ下で前に残らせる配置に変更した。ツキが回ってこない仙台。マリノスの勢いに再びのまれると88分にはクロスをマイナスでマルコス・ジュニオールに合わせられ致命的な先制点を喫してしまう。
本来その位置を埋めるべきだったボランチには、松下負傷のため柳が不慣れながらに入っていた。その柳が大外で余っていた渡辺のマークについてしまったことでマイナスのコースが空いてしまい、クロスをフリーで合わせられてしまった。
結局これが決勝点となり試合は0-1。横浜Fマリノスの勝利に終わった。
雑感
負けた気がしない。その類の試合だった。押し込まれ続けながらも、それに対してしっかりと対応し、88分間、アクシデントが災いするまでは0-0の状況を保ち続けた。特に後半は主導権を握っていたと言ってもいいと思う。中でも平岡は目覚ましい活躍を見せ、エジガルに勢いよく出るアピの背後をしっかりとカバーし続けた。年齢云々を言うのは個人的には好きではないけれど、この日初めてJの舞台に立ったアピを気持ちよくプレーさせるベテラン平岡、最高にかっこよかった。またクバも砦として立ちはだかりアピの背中を押した。バックパスを機にマリノスの最終ラインが上がると、それを見て裏にフィードを送るなど攻撃の起点にもなった。
さて勝てない。これでもかってくらいに勝てない。今回は引き分けに持ち込めると思ったのにアクシデント。しかも負傷したのは2週間くらいの怪我から復帰した松下が怪我。さらにジャメも途中で負傷交代。とにかくツキがない。この試合で見せた守備のように伸びている部分や収穫があるだけに、結果が付いてきて欲しい。何かを起こしたい次節神戸戦。