星をつくったひと

ゲームソフトはでかでかと名前を掲げたゲーム会社が作ったものとは限らない……とはゲーム好きの方にとっては当たり前のことかもしれません。

例えば【星のカービィ】は任天堂が発売元ですが、開発は後に同社社長を務める岩田聡氏が在籍していたHAL研究所というソフトハウスが手掛けています。当時HAL研究所に所属し本作の開発を進めた桜井政博氏は、後に【任天堂オールスター大乱闘スマッシュブラザーズ】を発表し、HAL研退社後も同作の総指揮を行っていることは有名ですね。
また同じタイトルでも開発元が違う事もあり、【R-TYPE】はアーケード版の開発・販売をアイレムが行ったものの同タイトルのPCエンジン版は【ボンバーマン】を代表作とするハドソン、セガ・マスターシステム版は【ぷよぷよ】で一躍時の会社となったコンパイルが開発しました。

このようにその時の開発体制やスケジュールなどの様々な事情で、今も昔もゲームの開発元は社内だったり社外だったりと変わるのですが、【星をみるひと】はどうだったのでしょうか。

はじめにWikipediaを見てみましょう。

画像1

開発元にアナザーとあり、ホット・ビィは発売元という表記です。
単純に考えれば「アナザーという会社がゲームを作ってホット・ビィが売ったんだな」となりますが、【星をみるひと】にはスタッフがクレジットされた部分が説明書にもゲーム本編にも一切ありません。
そもそもこのアナザーという会社は何なのか? 類似する名前が多すぎて検索すら困難でした。

そんなわけで今回はこの情報の裏を取っていく作業を中心に行っていきます。まずはどこにアナザーの痕跡があったかを辿りました。

ウェブ上で最もわかりやすく表記しているのは海外のこちらのページでした。

画像2

ページ下部に何やらよく分からないコードと「1987ANOTHERltd.」なる表記。なんのこっちゃと思いますが、実はこちらはゲーム内部のコード参照元を表しています。
つまり何を説明しているかと言いますと、プログラムの中に仕込まれた隠しメッセージとして開発会社のコピーライトがしっかり刻まれていた、という事です。
こちらを自力で確認するには吸い出したROMイメージを逆アセンブルすれば可能です……が、それ自体法に触れる行為ではないものの実行する際は必ず自己責任でお願いします。

ソフトの中に記録されているならばアナザーという会社が作ったことで間違いない。めでたしめでたし。と締めくくるにはまだ早い!
ここで僕は「聞いてた話と違うぞ?」と新たな疑問が浮かびました。
関係筋に星をみるひとの開発話を伺った際、ホット・ビィ社内で開発を進めていたと証言を頂いていたからです。

他に辿れる痕跡がないか? 改めてゲームの中身と向き合います。
知識がない自分にとって羅列にしか見えないコード群と何日かにらめっこしていると(誇張なし)あることに気付きました。
上記のアナザーの表記はプログラムの頭ではなくて大体真ん中くらいの途中と、ほぼ末尾に当たるポイントをくくるように刻まれていました。
「もしかして部分的にアナザーが開発を請けていたのでは?」と思い、そこからコード解読でさらに日数を費やします。

画像3

その最中に「ゲーム内のテキスト用画像コードを直接文字化する」技を教わり(画像は例の没テキストです)、どの部分が何を表しているかをおおよそつかめるまでには持ち込めました。
その結果、「アナザーのコピーライトが入っている部分は、いわゆるゲームシステムがまとまっている」ことが判明しました。

【星をみるひと】はカセットの中でざっくり分けて二つの領域に分かれており、グラフィックやテキスト、BGM等の「装飾の部分」と、ゲームの挙動や戦闘システムなどの「動作の部分」とで分かれています。
その中でアナザーのコピーライトは「動作の部分」をキレイに覆うようにして頭と末尾に刻まれており、どうやら装飾に当たる部分をホット・ビィ社内で作り、ゲームの根幹に当たるシステム全般はアナザーに依頼する形で開発が進められていた……という痕跡を読み解く事が出来ました。
これならばコピーライトにアナザーが入っていることと、社内でも開発していた事実との整合性が取れますね。
ちなみにBGMは別の外注だそうです。

ところでアナザーという企業はいったい何なのか?
こちらについてはこれまた海外サイトで概要を引き出すことが出来ました。

日本語での情報ソースがウェブ上で見つけられなかったため、これまた関係筋から直接伺う形となってしまいましたが

・森島直樹氏がほぼ単独でプログラムを請けていた会社
・ホット・ビィでは【ザ・ブラックバス】からの付き合い
・95年に森島氏が東芝EMIに入ると同時に法人を解消した

という部分は共通していたので、信頼できる情報とみてよいと思います。
念のためこのページで名前が挙げられているタイトルも一通り確認したところ、それぞれアナザーのコピーライトが【星をみるひと】同様に隠しメッセージとして入っていました。

【ザ・ブラックバス】はホット・ビィ初のファミコン参入タイトルで、これまでPC向けのゲーム企画・開発しか行わなかった同社はファミコン開発のノウハウがなかったため、アナザーの森島氏にプログラムを依頼。同作ではグラフィックを社内で描き、BGMは別のところに外注したとのことでした。
その後諸般の事情で【ザ・ブラックバス】での開発ノウハウはあまり活かされることなく【星をみるひと】が開発されてしまうそうなのですが、その過程でプログラムをアナザーに外注していたということは、開発の体制については踏襲されていたようですね。
この辺のいきさつはまんだらけZENBUにて連載中のコラムRESTARTでも拾っていこうと思います。

以上が今回の調査結果です。wikipediaにサラッと書かれた情報ひとつを辿るにも、なかなか深いところまで調べていかないと裏が取れないものですね。

今回のように日本の情報なのに海外サイトの方が情報が揃っている現象は、向こうの方がアーカイブを大事にする文化が発達しているのと同時に、元々海外サイトが情報ソースとしていた日本サイトがドメインサービス終了などの都合で消滅し、なし崩し的に海外サイトが一時ソースとなってしまいがちな現状があるからとのことです……。
ちなみに【星をみるひと】のBGMを制作した会社はまだ判明していないため、情報をお持ちの方はご一報ください!

いいなと思ったら応援しよう!