用無しのケーキ
本日、会社の契約を切られた。
毎日行きたくないと思いながらよく分からないデータを打ち込みつつも、新しいことを覚える度いつか自分の身になると思っていた仕事。
なんで私生きてるんだろうと思いながら退勤した後ショッピングモールで目に留まる服を手に取って身体に当て、自分の顔が明るく見えると財布から肖像画を取り出す、その元手の仕事。
学生でもない、資格勉強をしている訳でも、結婚している訳でもない私の、ちゃんと社会に貢献している、参加しているという証拠の、仕事。
それを本日失った。
上司から契約解除を言い渡されたその足で、ずっと足を踏み入れるのを躊躇っていたカフェに入り苺ケーキセットを頼む。お昼がまだだった私はただパクパクと甘い塊を口に運ぶと、機械のように会計を済ませ、店員さんにお礼を言う。この人は、働いてる。
いつも歩いていた道で会社の最寄駅へ向かう。この花屋さんの人も、この服屋さんの人も、通りすがりの人もみんな、働いてる。
イヤホンマイクを片手にすれ違うスーツを着た男の人とすれ違って、ガラス窓にトレンチコートを着た自分が写る。
周りから見たら私も働いてる人、なんだろうな。詐欺だな。
そんなふうに思いながら電車に乗り、どうしても家に帰りたくなくて乗り換えの主要都市で降りた。
せめて何か食べよう、そう思ってご飯屋さんを探すけど、どこも賑やかで華やかで、とても入る気分にならなかった。
少し歩いてまたカフェに入る。
さっきケーキを食べたばかりなのに、またケーキを頼む。甘いものはそれほど好きじゃない。
2、3口食べてケーキが崩れる。甘い。洋梨のケーキ。用無し、用無しかー。ぐちゃぐちゃだな。一緒だな。ここで私が残したら君は捨てられるのか。一緒だな。
気持ち悪くなりながら一気に洋梨のケーキを食べて、お店を出る。
家にはまだ帰りたくない。
用無しのケーキを胃袋に放り込んで、よくわからない街に一緒に心中しよう。
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