爪痕 〈詩〉
昔、書いた詩。
見つけたから、載せときます。
急に、何も告げずに、消えてしまいたい
そうしたら、みんなの心に爪痕を遺せるもの
と、彼女は言った
気づけなかったことを悔やんだり
もっとできることがあったはず、と
自分を責め続けるから
ずっとみんなの記憶に遺る
できるだけ何気ないタイミングで
蝋燭の火が急に瞬いて消えるように
消えてしまいたい
それは、彼女の最期の演出
彼女の物語の結末の1ページを
自分のプロデュースで描きたいという
ささやかな望み
ある月の細い夜
今日の空気ならば溶けあえる気がして
彼女は羊水の中に戻る
周りはいう
あの子はいつも笑顔で、悩みなんか聞いたことがない
昨日もみんなの中ではしゃいでいた
あの子のことだから、ついうっかり、足を滑らせたんじゃないか
それぞれのストーリーの中で
彼女を解釈していく
彼女の遺した爪痕は
いつまでも人々の胸を疼かせる
彼女の思惑は、まずまず成功と呼べるだろう
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