夢百夜 ~第二夜 海を越え、就活の果てに権力を望む~


こんな夢を見た。

海を越え、ある島に行かねばならないという使命感だけを持っていた。
船で行けば20分野程度だが、既に出航していたので、私は喜んで泳いでいくことにした。
生来乗り物が大の苦手なため、本当なら船に間に合ったとしてもあえて泳いで行きたかった。しかし海を泳いで渡ろうとすると、周りの親切な方々が、バカなことを言うなと必ず船に乗せて運んでくれる。実際海を長距離泳ぐことの危険性も理解していた。だから、もう船が無いという状況は、私の希望である、世間的には最終手段である泳ぐという手段を取ることを正当化するにはうってつけで、ありがたかった。
15分程泳いだはずだが、体感では10秒ほどで島に着いた。
ここで意識が飛び、再び気が付くとスーツを着て採用試験を受けていた。
試験内容は随分難しいはずなのに、スラスラと解けた。
試験が終わり、確かな手応えを感じながら退出した私は、同じく試験を受けていた高校の頃の同級生と鉢合った。
「どうしてこの試験を受けたの?」
彼の問いに、私はハッとした。
私は既に別の企業から内定を頂いていた。
なのにそれを隠して、就職したくもないこんな企業の試験を受けてしまい、あまつさえおそらく好成績を修めてしまった。これでここからも内定を頂いてしまったら、私はここの内定を辞退しなければならない。世間的には、内定の辞退は最終手段であり、そしてもちろん私も望んで行うものではなかった。
ふと意識が途切れ、気付くと私は部屋で、小学生の頃よく一緒に野球した6人組と、口の達者な森田君の計7人でお喋りしていた。
森田君は「お前ら、坂本側には付かんといてな」と言って私たちの笑いを誘った。
坂本君は常識人で、森田君は芸人といった感じがある。森田君の方が一緒に居て面白いけれど、坂本君には森田君には無い魅力があり、家族関係がこじれてしまっている私には、常識的な坂本君と接することは心地好かった。そんな坂本君と敵対するような事はしたくなかった。森田君とも仲良くしたかったが、おそらく二人が完全に敵対したら、私は坂本君とよく遊ぶようになるだろう。
「へへ、分かったよ。」
隣に居た松川君が頷いた。彼は野球以外にもサッカーやバレーをして、様々なグループに所属していた。だからなのか、小学生にして人に媚びる術を心得ていた。そんな彼の姿が、いつも私の目には悲しく映っていた。
私は考えた。
そして、森田君と松川君、坂本君。この三人よりも大きな求心力を用いて権力を手に入れて、同級生全員を支配下に置く事で、この事態を丸く納めることにした。
つまり、私が王となり、平穏をもたらしてやるのだと思った所で目が覚めた。