夢百夜 ~第三夜 恋~


こんな夢を見た。
陽の沈みかけた夕暮れ時、彼女を助手席に乗せて見慣れた道を車で駆ける。
下校する時によく通った道だった。登校する時は最短の道を通るけれど、下校する時はこの、少し迂回する道を通った。友達と野球をする公園があったからだ。
けれど、今はこの懐かしい道が様変わりしている。
5年も前にはこんなに広い道じゃなかったし、こんなに街灯も無ければ、近くに豪奢な住宅街も無かった。
その変貌が私の胸の内を騒がせた。全く知らない道とはまた違う、知った気でいたものが、まるで分かっていなかったと突き付けられているような恐ろしさ。私の全く知らない一面を内包し、それが時間と共に姿形として現れること。私の浅ましさから隠匿されてきた核を見せつけられているようだった。
「ここ、よく通ったんだ。」
努めて平静を装った言葉は、弱々しい震えを帯びた。
「そうなんだ。」
私の心情などすっかり見抜いているように、彼女は小さく答えた。
車を停めると、私は彼女を公園まで連れてきた。
駆け回る子供たちと、見守る母親たち。
公園の中は私の記憶の中のままだった。
「ねぇ。見てよ。」
彼女は公園の柵に肘を預け、視線を外に向けた。
その視線を追うと、酒脱だが落ち着きのある家が建っていた。私好みの家だった。
先ほどまでの、私を拒絶するような華やかさが、私の世界から消えていくようだった。
思わず言った
「綺麗だね。」
頷く彼女に、私は続けた。
「なんか、ご飯食べたくない?ええ感じのご飯。」
彼女は私の提案に明るく「いいね。」と答えた。
照れ臭くなった私は「じゃあ行こうぜ。きったねぇ居酒屋で飯食おうぜ。」と言った。
彼女は柵に肘を預けたまま、私が恋に落ちた笑顔を浮かべた。
速くなる胸の鼓動を、街の柔らかな光が包み込んでいった。