Strachan 1909 中期ウェールズ語文法まとめ #01 音と音変化
はじめに
本稿はウェールズ語学習記録の一環で、Strachan 1909の内容をまとめ、参照するための自分用のメモのようなものである。したがって本稿にはStrachan 1909を参照せずにはよくわからない部分もあると思われる。また、Strachan 1909: xv–xvi に示された略号は割愛するので、略号が出てきたときにはそこを参照のこと。以下、// は音素表記、[] は音声表記、<>は綴り字を表す。
参考文献
Strachan, John. 1909. An Introduction to Early Welsh. Manchester: University of Manchester Press.
母音と二重母音
<u> は <v> でも表記される。OWの時点で <u> は [i] に近づいていた(cf. 通常Dunaut, Dunawtと表記される語(< Lat. Donatus)がDinootと表記される例)
<w> /u/ はMWではwもしくはỽと表記。OWではuと書かれる。MW写本(Strachan 原文 'MSS.' は「写本」の意か?)のいくつかではu, vで表記。二重母音でも同じ。
<y> はOWでは <i> で表記。MW写本では <i, e, ẏ, y>。
二重母音 <ae, oe> はOWでは<ai, oi>, 後に <ai, aẏ, ay, ae; oi, oẏ, oy, oe>。
<eu> はOWでは <ou>。語末の <eu> はMWではときに <-e>として出現。MoWでは <-au>(MW penneu = MoW pennau)。
<wy> は <oẏ, oe> になることもある。
母音の長さ
A. 強勢のある母音は
(a) 長い。
(α) 母音で終わる単音節語において(e.g. tȳ「家」)
(β) 単子音で終わる単音節語において(e.g. dȳn「人」, gwlād「国」etc.)
(b) 複音節語の開音節で半長である。(e.g. dì-nas「街」, dīn「城」, tà-deu「父たち」, tād「父」)
(c) 短い。
(α) 複子音で終わる複音節語において(e.g. penn「頭」, trwm「重い」 etc.)
(β) 複音節語の閉音節において(e.g. penneu「頭(複数)」, undeb「統一性」)
B. 強勢のない母音は短い。これはheb「〜なしで」, fy「私の」, dy「君の」などの倚辞にも当てはまる。
子音
(訳註:ここの子音の表は現代のIPA並びに従って並べ直したのでStrachan 1909の書き方とは相違がある。)
強勢
強勢のある語において、強勢はpenultに置かれる。
従来、ブリソン諸語すべてにおいて強勢は最終音節に置かれており、これはVannesのブルトン語に保存されている。この古い強勢システムのために、のちの強勢システムで強勢が置かれるはずの音節が弱化するということがある。
pechadúr「罪人」< Lar. peccātōrem: pechaẃt「罪」< peccātum
OW hinhám, MW hinhaf「最古の」: hen「古い」
MW llynghes「艦隊」: llong「船」
アクセント位置の移動の時期は判明しておらず、最終音節におけるaw > oの変化(MW pechawt > MoW pechod etc.)とつながりがありそうである。