26歳。夢は自転車に乗れるようになること。
現在26歳。”社会人”という肩書もそこそこ板についてきて5年目。私は一年発起して、自転車に乗る挑戦を始めた。
まずは私と自転車との関係についてを書いておこう。
これまでの人生、自転車に乗れないということは、私のアイデンティティのひとつだった。
これはかなり強めのカードで、知り合って浅い人との話の種に困った時には絶大な効果を発揮した。
なぜなら、多くの人は自転車に乗ることができ(実際には普段乗っていなくても子どもの頃に1度は乗れるようになっており)、しかも自転車に乗れないまま大人になる人間がいるという事実を知らないときている。
そのため、「実はわたしチャリ乗れないんですよ、へへ」と言えばたいてい驚いて「そんな人いるの!?」とツッコんでくれるのだ。しかも“自転車に乗れない”というのはこれがまた程よい情けなさで、親しみを感じてもらえるポイントになることも。
ではもし相手も同様に自転車に乗れない場合はどうかというと、これこそめっけもんであり、異国の地で偶然同郷の人に出会ったときのような感動が生まれる。有名人でいうとなんとかの羽生結弦氏も自転車に乗れないとのことなので、もし彼と対面することがあってもこの共通の話題で盛り上がれるに違いない。
そんな羽生結弦とマブダチになれるチャンスを秘めた“オイシイ”個性を捨てようと思ったのは、転職がきっかけだった。
転職に伴い、わたしは8週間の有給消化期間を手に入れた。
社会人になってから、こんなに長い休みは夢見ても得ることはできなかった。まさに大人の春休み。
これが2年前だったら、国内外あちこち旅行していただろう。4年間労働したぶんだけ多少の金の余裕があり、かつたっぷり時間もあるチャンスなんて滅多にない。しかしそんなことは許されない今日この頃、このご時世だ。
何か資格をとる勉強でもしようかとも思ったが、逆に考えれば、ここまで何もすることのない期間が続くというのもそうそうない。どうせまた働き出したら日々に追われるようになるのだし、と思うと、この長期休みに目標だの志だのを設けるのはそれこそもったいないような気がした。
しかし、かといってただグウタラと過ごしてしまったら、変なところが生真面目な私なので、「あんなに時間があったのに何もできなかった…」と終盤になって落ち込むことは目に見えている。
そこで浮上した案が、自転車に挑戦してみることだった。
自転車に乗れない、という時点でうっすら気付かれているかもしれないが、とにかく私には運動神経というものがない。絶望的にない。
自転車に乗れるようになる。逆上がりができるようになる。二重跳びをとべるようになる。こうした、小学校中学年くらいまでにたいていの人がクリアしてきた体育の通過儀礼みたいなやつを、ことごとくスルーしてきたのが私だ。
そして自分のそんなところを、正直言って全然ダメだとは思っていない。なんならちょっと好きなのだ。
自転車に乗れない、ということが話のタネになるのは先述の通り。体育の授業を受けなくなって久しい今、壊滅的な運動神経というキャラ付けにはメリットもあり、そして自転車に乗れないことはその分かりやすい例であり、「これが私の個性です」と開き直って生きていることに割と満足している。
だからこそ、それを壊してやろうと思った。
転職は大きな変化になると思う。その大ジャンプに挑む前に、チャリ乗れないキャラを捨てて一段身軽になっておくのは、なかなかいい考えのような気がしたのだ。
自転車に乗れない現状に、正直困っていない。そして、乗れるようになっても困ることはない。なんなら便利なことが多い。だからこそ、たいていの人は乗れるようになっているんだし。
自転車に乗って切る風はどんなだろうと、憧れていたことも事実だし。
新しい職場でスタートを切ったら。これから毎朝起きる時間。乗る電車PCのログインID。何気ない会話を交わす同僚。全部が今までと異なる。そうして過ごすことになる毎日は、私自身のことも作り変えていくだろう。正直なところまだ実感は湧かないけど。
その新しくなった私が、スイーッと自転車に乗って今まで徒歩じゃいけなかったような遠くまで行くところを見てみたい。
あと、例えばもし会社の人に「休み期間何してたの?」と聞かれたとき、「チャリの練習をしていました」と言えばかなり良い会話のタネになりそうという魂胆もあったりする。
そんなわけで、26歳、春。私は自転車に乗る練習を始めた。これからnoteで少しずつ、その過程を記していこうと思っている。
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