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【M-1グランプリ2022】 「ウエストランド」最終決戦ネタを文字起こし [定量的に分析してみた]

ネタを文字起こしして、それをデータ化し、どういう特性があったのかを分析してみた。


◆表記ルール

・河本のセリフは[ 河: ]とつけた。
・井口のセリフは「」(カギカッコ)でくくった。
・観客が笑った箇所に「観客笑」と付けた。
・観客が手を叩いて湧いた箇所に「観客爆笑★」と付けた。
・区切りのよいところで秒数を表記した。

◆ネタ文字起こし

[00:00]
(入場)
「どうもー、あらためましてウエストランドですー」(観客拍手)
「ありがとうございますーがんばっていきましょうー」

[00:14]
河:オリジナルのね、あるなしクイズ考えたんですよ(観客笑)
河:やります?
「あー、たまたま大好きなんで」(観客笑)
「ちょっとじゃあ出してもらっていいすか」

(訳注:ウエストランドは決勝ラウンドのネタ順が10組中10番目と一番最後で、続く最終決戦が一番手だったため「連続でネタ披露」となり、ひとこと目の 「あるなしクイズ考えたんですよ」だけで客席が“さっきの続きだ”とすぐにひと笑いが起こっている。手間のかかる「あるなしクイズのルール説明」も端折れてスタートが切れて、勢いを止めずにリズム良く本ネタに入れているのは大きい)

[00:20]
河:まずね、“アイドルにはあるけど、役者にはない”。
「アイドルにはあるけど、役者にはない。はい、わかりました。(挙手)」
河:まだ、まだ1個目だから。
「1個目でもわかるから!」(観客笑)
河:じゃあどうぞ
「正解は、向上心!」
河:なんでですか?
「アイドルはなんとしても売れてやるという向上心がすごいから。他人を蹴落としてでも自分だけは売れてやるんだという飽くなき向上心のカタマリだから。急に心霊が見えるようになったと言い出してみたり。(観客笑)  
急に部屋が汚いと言い出してみたり。(観客笑)
ネクストブレイクくらいの芸人に近づいてお笑いわかってますヅラしてみたり、(観客笑)
なんとしても自分だけは売れるという向上心がすごいから、正解は向上心だろ!」
河:ちがいます
「いいや!向上心!」
河:いいやってことはない (観客笑)
「いいや!向上心だろ!」
河:ちがいます

[00:57]
「だってそうだろう、ナシのほうの役者なんて、そこらへんの舞台役者なんてお互いの芝居見に行くだけでなんの向上心ないんだから」(観客笑)
「ひとつも成長しねえじゃねえかあいつら!うーん演出が悪いなとか脚本が悪いなとかなんにも成長しないんだから。前売り5,500円。たけーよ!」(観客爆笑★)
「高いから!」
「毎回毎回“知らないやつが載ってる裏表紙”いらないんだよあれ!」(観客笑)
「だから正解は向上心だろ!」
河:ちがうって。
「向上心!」
河:違います。
「違うの?」
河:ちがう。

[01:22]
「じゃあ次いってくれ次。」
河:えー、“田舎にはあるけど都会にはない”。
「田舎にはあるけど都会にはない?はい。わかりました(挙手)」
河:はいどうぞ
「えー、引け目。」(観客笑)
「いくら田舎で成功してもどうせ都会では通用しないよなの引け目を常に感じてるから、正解は引け目!」
河:違いますしそんなことはないです (観客笑)
「いや、引け目だろ。」
河:違います
「引け目だろ」
河:違います
「引け目だろ?」
河:じゃあアイドルにも引け目あるの?
「アイドルは引け目感じてるに決まってるだろ、だって嘘ついて売れようとしてんだもん!」(観客爆笑★)
「引け目のかたまりだろ。年齢から何から嘘ついてるんだから。引け目だろ?引け目!」
河:違うっつって。
「虚無感!」
河:虚無感?(観客笑)
「“田舎だもんなー”の虚無感。虚無感!“ここで活躍しても田舎だもんなー”の虚無感!」
河:そんなことない
「違うの?」
河:違います
「じゃあもう次いってくれ次」

[01:58]
河:えー、歌にはあるけどコントにはない
「はい。これわかりました(挙手)」
河:はいどうぞ
「正解は、メッセージ性。なぜなら歌にはメッセージ性が必要だけど、お笑いにはメッセージ性とか必要ないから、正解はメッセージ性。」
河:あー残念違います
「そうかー、ネタにメッセージ性つめてくるうざいコント師とかいるかー」(立ち尽くすジェスチャー)(観客爆笑★)
「やめてくれー。単独ライブの最後20分を長尺コントやめてくれー」(観客爆笑★)
「いらねー、ほっこり終わりやめてくれー見てらんないから。なんか文章のタイトルやめてくれー単独ライブのタイトル。不条理な文章にするの。「晴天なのに傘」やめてくれー!」(観客爆笑★)

このあたり井口の言い方おもろい

「やめてくれお笑いライブで。なんかフライヤー。ポスターのことをチラシのことをフライヤーと呼びなんかそれも不条理なやつ、“瓦礫の前でパジャマ”。やめてくれー!不条理な」(観客笑)
「フライヤー!」
河:答えが?
「フライヤー!」(観客笑)
「不条理なフライヤー!」
河:答え?
「不条理なフライヤー!」
河:違う、そんなわけないでしょ
「違うの?」
河:違うよ

[02:48]
「じゃあ次いってくれ次」
河:M1にはあるけどR1にはない。
(一段と速攻で挙手)はい!夢!
河:そんなことはない。(観客爆笑★)
(かたい表情、首をふる)(爆笑続く)
「希望? 希望!」
「大会の価値。大会の規模」(観客爆笑★)
[03:00経過]
「そりゃそうだよM1は決勝いくだけで人生変わるけどR1はなにも変わらないから、夢!」
河:そんなことない (観客笑)
「希望!」
(苦笑いのジェスチャー)
「どうしちゃったの?」
河:当てる気ないでしょ?
「当てる気あるよそんなの」
河:自分の気持ち言ってません?
「自分の気持ちじゃない、クイズに正解したいだけだから。次いってくれ次!」

[03:17]
河:“大阪にあるけど東京にはない”
「はい!自分たちのお笑いが正義だという凝り固まった考え」(観客爆笑★)
河:(首をふる)
「それを押しつけてくるあの感じ!」
河:(首をふる)
「自虐ネタばっかり言うくせにこっちがいじったらブチ切れてくるあの感じ」(観客笑)
「ずっと“え、エスカレーターそっち並びまんのん?”ずっというあの感じ!それだろうが!(興奮抑え切れず河本を強く押す)」(観客笑)
[03:34]
河:結局どれなの?
「“うざい”!」
「あるほうは全部“うざい”!!」
河:M1も?
「M1もうざい!」(観客笑)
「アナザーストーリーがうざい!!」(観客爆笑★)
「いらないんだよ、泣きながらお母さんに電話するなー(観客笑) 
(電話するフリで)“優勝したよお”じゃないんだよどうでもいいよ!(観客爆笑★)
見てらんないから。うざいうざいうざい!あるほうもないほうも両方うざい!」
河:あるなしクイズにならないじゃないすか

[03:52]
「正解はなんなんだよ」
河:正解は頭文字ぜんぶ集めると“あいうえお”になってる、っていうね
「クソつまんねえじゃねえかよ、どうも、ありがとうございました」
[04:00ジャスト]

◆定量的な分析してみた

まず「ネタの構成」を分析してみよう。
全部の9つのブロックで構成されており、そのうち「導入部」と「クロージング」を除くと「7つのブロック」からできているのがわかる。

[00:00]〜[00:20]導入部
[00:20]〜[00:57]①アイドル
[00:57]〜[01:22]②劇団員
[01:22]〜[01:58]③田舎とアイドルの引け目
[01:58]〜[02:48]④コント師
[02:48]〜[03:17]⑤M-1とR-1の違い
[03:17]〜[03:34]⑥大阪人
[03:34]〜[03:52]⑦M-1もうざい
[03:52]〜[04:00]クロージング

次に、これを『経過分数』で切ってみよう。

[最初の1分間]①アイドル
[〜2分経過]②劇団員、③引け目
[〜3分経過]④コント師、(⑤M1の冒頭)
[〜4分]⑤M1とR1、⑥大阪人、⑦ M1もうざい

特に「最後の1分間」に次々話題を変えて畳み掛けているのがわかる。
(「2〜3分」のコント師への悪口がたっぷり長いのもわかる。ここで笑わせるという自信がうかがえる)

それでは、「観客笑」がいつ起こっているかを分析してみよう。

[最初の1分間]観客笑:7回 観客爆笑★:0回
[〜2分経過]観客笑:5回 観客爆笑★:2回
[〜3分経過]観客笑:2回 観客爆笑★:5回
[〜4分]観客笑:5回 観客爆笑★:3回

これらのデータから分析し、3つのポイントに着目した。

1、
まず、他の漫才師のネタに比べて「最初の1分間」の観客笑の量が抜きん出ている。
これは前述した「2本連続で続けてネタがやれたので客が温まっていた」という環境が大きそうだ。何が始まるのかをすでに客がわかっていて“笑い待ち”できていたと言えそう。

2、
手を叩いてドッと笑う「観客爆笑★」が、どの分数にもコンスタントに発生していて、その総回数もとても多い。
普通であればネタ終盤の1分間に爆笑シーンは集中するものだが、これは、今回のウエストランドのネタの構成が「ひとつのストーリー物」というよりも、「大喜利形式」になっていて、次へ次へとお題を変えることで“手数を増やしていける仕組み”になっていることがそれを生み出していそうだ。


3、
「河本からクイズが出されて、井口が挙手する」というのが基本の流れだが、そのシーンを丁寧に見てみよう。
クイズはぜんぶで5つ出題された。下記。

あ、アイドルにはあるが役者にはない
い、田舎にはあるが都会にはない
う、歌にはあるがコントにはない
え、M1にはあるがR1にはない
お、大阪にはあるが東京にはない

分析してみると、この5つのクイズへの「井口の解答速度」が工夫されているのがわかる。
ひとつずつ見てみよう。


「あ」(アイドル)
クイズの設問をオウム返ししながら、少し考えて、「はいわかりました」と挙手する
「い」(いなか)
さっきと同じく設問を口に出して反芻しながら、「はいわかりました」と挙手する。(さっきより少し早い)
「う」(うた)
クイズが出た直後に「はい、これはわかりました」と言いながら、自信満々で挙手する。
「え」(M1)
クイズが出されるやいなや、速攻で「はい!夢!」と挙手と同時に解答する。観客爆笑。
「お」(大阪)
さっきよりもさらに速攻で解答するし、初めからもう怒っている。観客爆笑。

どんどんと井口の解答速度が早まっていくのが分析するとよくわかるし、井口の憤りの怒りもどんどん高まっていく。その勢いが増すのに合わせて観客も乗せられて盛り上がっていく。リズムよくトントントンと次々に笑いが起こり、観客も次はなんだろう次はなんだろうとワクワクしていく。

今回の「ネタ構造」が、ウエストランドがもともと持っている特徴や強みと相性の良い装置になっているのが分析してみるとよくわかる。
「観客笑」の回数やその頻度からみても、文句なしの優勝と、定量データからはいえそうだ。
(おわり)












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