ドラマ『MIU404』【第4話の感想】 3つの“目”が伝えたかった事。
『MIU404』は、表向きは誰が見てもワクワクドキドキできるアクション刑事ドラマだけど、「あーおもしろかった」だけでは済ませないところがある。そこがまた魅力的だ。
今回の第4話は『目』がキーワードだった。
伊吹(綾野剛)は、監視カメラで捉えた“1億円の女”青池透子の『目』が気になった。「たくさん言いたいことがありそうな目だ」と伊吹はいった。「会って話しがしたい」。
青池は、逃亡中に銃で背中を撃たれ、出血しながらも銀座で行方をくらませる。
雲隠れしているうちに、彼女は、手製のクマのぬいぐるみの『目』に1億円で購入した2つのルビーを押しこんで隠し、そして銀座で偶然見かけたポスターの、印象的な『目』をした少女との運命的な出会いに、そのルビーを寄付することに決める。
彼女には、“1億円の使い道”なんてもともとなかったんだと思う。
金を盗んではいたが、使い込んでいたわけではなかった。自分の人生をめちゃくちゃにした暴力団の“汚い金”に対する復讐心から着服をはじめるが、それをどう使おうかという計画は持っていなかった。
だから、逃亡途中の銀座の街角で、その『少女の目』に見つめられた時、彼女にはすべてがわかったのだと思う。「この瞬間のために私は命がけで1億円を盗んだのだ」、と。
このお金で、私と同じ道を歩んでしまいそうな人を救いたい。籠の中に閉じ込められて自由を奪われている少女を助けたい。必ず助けられる。
この寄付こそが、彼女の後悔だらけの人生のなかに灯る一筋の光となり、きっと彼女自身をも籠から救いだすことにつながるのだろう。
死の間際に、高速バスの車窓から、青池は、赤い目をしたぬいぐるみを乗せたトラックが羽田空港へと向かうのを見送ることができて、かすかに微笑み、こと切れる。分かれ道。
「ルビーの石言葉」は古来から“勝利に導く”だという。真っ赤なルビーは生命力の象徴で、長い争いの歴史の中で多くの皇帝や将軍に愛されてきた宝石なのだそうだ。だから選んだのは“ルビー”だったのか。
逃走中の青池は、応急処置をしてもらった薬局でこうつぶやいた。「最後の勝負に賭けてみようと思うの、今まで勝ったことないけど」、と。
目を静かに閉じた彼女の身体は冷たくなり、バスは途中の羽田西で高速道路を降りてしまうことになるが、希望を乗せた運送トラックは空港へと羽ばたいていく。
ルビーのチカラに守られて。
※※※
と、ここで感想文を閉じれば“ある意味では”だがドラマとしてはハッピーエンドとも言えそうだが、この第4話の冒頭には実はこんなエピソードが語られている。
2010年頃に「タイガーマスク運動」と呼ばれた社会現象が起こり、実は伊吹もそれに賛同して加わっていたという。これは「日本各地の児童福祉関連施設宛てに、“ランドセルの寄付行為”が連鎖的に複数人から大量に短期間で行われた」という、実際に起こった一過性の社会現象の事である。
今回のドラマの中では園長が取材を受けて「ランドセルばかり届いて困っているんです」と迷惑そうにコメントをしているシーンが映された。
Wikipediaを調べてみると、実際のタイガーマスク現象の事後評価が「すべて困ったことだった」とは分析されてはいないようだが、このドラマの中ではあえて否定的な園長のインタビューのみが切り取られた。
「押し付けがましい善意の自己満足による寄付」は、受け手側を幸せにはしない。
物語の冒頭でそうメッセージを刻んだ上で、ラストシーンで、ルビーは羽田を立つのである。
さあ、ルビーは誰に“勝利”をもたらしたか?
(おわり)
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