【考察】O-MENZは2.5次元アイドルである 〜謎のお面ダンステロリスト集団「O-MENZ」(オーメンズ)の特異性〜
O-MENZにハマった。
「O-MENZ」(オーメンズ)とは、「謎のお面ダンステロリスト集団」を名乗る5人組のストリートダンスグループだ。2020年に結成され、TikTokで「1000投稿目に何か起こる謎のお面集団」としてダンス動画をアップしている。2024年には初のワンマン全国ホールツアーを成功させ、ますます勢いづいている。
実は、1〜2年前からTikTokで目にしてはいたが、特にのめり込むことはなく「こういう人たちがいるのね」というくらいの認識だった。しかし最近見かけて
「ダンスうまいなー」
「一人ひとりダンスのジャンルが違うのか」
「フリーライブ、人集まってんなー」
「ほかの動画も見てみよう」
「狐、かっこいいな」
とズルズルとハマっていったのだった。
狐ェーーーーーーーーーーーッ!俺だ!結婚してくれ!
だが、以前はスルーしていたのになぜ今ハマったのだろう。過去動画を漁りながら思い当たったのは、彼等が幾多の経験を経て動画がブラッシュアップされている点。そして、O-MENZは2.5次元アイドルのような志向で成り立ったプロモーションを徹底して行っているストイックなグループであるという点であった。その2.5次元性を証明するために、O-MENZを分析し、あり方を探っていこうと思う。その他調べたことや思いついたことと合わせて、ひとまずここにまとめておきたい。
※本記事はあくまでO-MENZの2.5次元性を推測を交えて検証する内容であり、O-MENZのまとめ記事ではないことを留意されたい。
※O-MENZのファンネームは「共犯者」である。が、本記事ではこの呼称を用いないこととした。理由については後述。
※2024年6月時点で、O-MENZは公式SNSからの転載および無料ライブや配信映像の切り抜き投稿を許可している。本記事で引用する画像・動画はいずれも無断アップロードには当たらないと認識しているが、相違があれば連絡いただきたい。公式関係者様、並びに引用元の動画作成者様にこの場を借りて感謝申し上げます。
プロフィール
メンバーは現在5人。カギカッコ内は、ライブで定番の自己紹介。
「お面に宿りし力を借りて、ストリートから世界へ
We are ダンステロリスト集団 O-MENZ!
こんな個性豊かなお面のメンバーだ、まずは自己紹介をさせてくれ」
般若(はんにゃ)
「まずは俺から。 Master mind of O-MENZ 俺がリーダー、般若だ。
福岡県出身、ダンススタイルはクランプ。
今日はお前ら全員、明太子にしてやるよ」
※「明太子」…般若のファンネーム
おかめ
「Balance of O-MENZ 優しさ担当、おかめです。
みんな楽しもうね」
隈取(くまどり)
「Brave of O-MENZ この俺が隈取だ。
ブチかます。以上」
狐(きつね)
「Silence of O-MENZ わたくし、狐と申します。
皆様、本日はよろしくお願い致します」
阿行(あぎょう)
「Innocence of O-MENZ 俺が阿形です!
せーのっ \あぎょたんでーす/」
一言で言えば、TikTokでお面をつけて踊ってる人たち、といったところだ。顔を出さずに活動している歌い手や配信者のダンスグループ版と思ってもらえればおおむね合っている。
経歴
2020年5月にTikTokに、お面をつけて踊る動画を初投稿。以降、TikTokを中心に活動を続け、ライブやコラボを重ねて成長。メンバーチェンジを経つつ、着実にファンを増やしてきた。詳しくは以下の記事を参照。
O-MENZはいつからO-MENZだったのか
※筆者がO-MENZにハマったのは2024年11月であり、過去のすべての情報を入手するのは困難であるため想像を含むことを了承いただきたい。指摘があれば連絡いただけると助かります。
まず、このO-MENZというプロジェクトの仕掛人はリーダーたる般若その人だ。前述のプロフィールの通り、中の人(あまり気の利いた呼び方ではないが便宜上こう呼称する)はプロのダンサーである。だが、ダンサーとして生計を立てていくことは難しく、各々別の仕事をしながらダンスを続けているという状況であった。この辺りの経緯は2021年に行ったクラウドファンディングのサイトから確認できる。
「誰かのバックダンサーばかりの日々、なんか面白いことしないか」
「ダンスでもう一花咲かせてみたくないか」
「俺たちが主役になれる方法があるんだけどさ」
般若からそんな声がけがあったのかもしれない。おそらくだが、互いはもともと知り合い同士で、結成のために新しく人を探したりはしていないのではないかと思う。
そんな話に乗った数人が、ノリでお面をつけて踊った?
いや、おそらくそんな軽い調子ではない。
そう考えたのは、あまりにコンセプトが固まりすぎているからだ。
覆面アーティストたちが顔を隠して活動する理由といえば、
①顔がわからない方がミステリアスで興味を引く
②知人にバレたくない
③容姿で評価をされたくない
④別な活動をしているためバレたくない
(a)本当にバレたくない
(b)「中の人があの人だってみんなわかっているだろうけどお約束だから黙っていようね」というケース
(c)契約等の都合上、名義を分けたい
といったところだろうか。
O-MENZは主目的としては①だが、④の要素がやや入り混じっている。
(③の要素もおそらくあると考えられるがここでは割愛する。)
中の人たちは、もともと持っている名義でO-MENZと並行してダンサーの仕事を続けている(と思われる)。だが、前述の経緯を見る限りでは現状で名前や顔が売れているダンサーではないことが窺える。そういう意味では、中の人的にも「O-MENZという新しいグループを始めたんだよ」というアプローチをした方が仕事に繋がりやすいという欲もあるのではないだろうか。
しかし、そうはしなかった。
おそらく、それがO-MENZのコンセプトだからだ。
お面を単なるネタではなくグループのアイデンティティとし、それを守ることを決めたのだ。
2020年5月の、初めてのTikTok投稿。特に説明はなく、般若・おかめ・狐(初代)の3人が並んで踊るだけの動画だ。
だが、タイトルにはすでに「残り999」とある。おそらく、O-MENZを始めた時点でコンセプトはもう決まっていたのだろう。その後どれほど人気が出るかの予測はともかく、この始まりの動画は間違いなく今のO-MENZと同じ方向を向いている。
最初から、O-MENZはO-MENZであったのだ。
O-MENZに想定されるレギュレーション
ここからは、今述べたO-MENZをO-MENZたらしめている基準について推測していこうと思う。この推測を、O-MENZが2.5次元的存在であることの証明の後ろ盾としたい。
※言うまでもないが、O-MENZをO-MENZたらしめている要素のひとつはプロレベルのダンスである。だが、それだけでは頭ひとつ抜け出すことはできなかった。そのため、ここではダンススキルの高い他のグループとの大きな相違点である、お面をつけている点にフォーカスしていこうと思う。
さて、O-MENZの活動に当たっては、以下の大原則があると感じている。
お面をつけている時は、O-MENZというキャラクターを演じる。
どの動画を見ても、どのメンバーもこの一線を厳守している。もちろんその決まりが公開されているわけではないが、優秀なプロデューサーが決めごとをまとめ、メンバーはそれに沿って動いているという印象を受けた。すでにプロフィール欄で紹介した定型文の自己紹介を見ても、規律を守るアイドルのようなテイストが感じられる。
ではここからは、動画を見ていて、おそらくこういうレギュレーションがあるのでは?と感じた部分をまとめていこう。あくまで想像であることに加え、項目によっては後から生まれたもの、修正されたものがあると思われるが、ひとまず2024年11月現在の印象で書かせていただく。
■お面について
・お面をつけている時は、「O-MENZの○○」というキャラクターを演じる。「中の人ネタ」はNG(NG例「別な仕事では~」「O-MENZの時はこんな感じだけど実際は~」)
・お面をつけていること自体はネタにしてもOK(OK例「目の穴が小さいから周りが見えないんだよね」)
・ただし、お面を外すことについてはネタにしない(NG例 わざとお面をずらして顔をチラ見せする)
※お面を外してお面のみを写す、お面を外し後頭部のみを写す、等はOK
※お面をつけた状態で目元をアップにする、はOK。なお目穴の大きさは目の大きさと同じくらいであるため、接写しても顔立ちまではわからない
ちなみに、お面をつけて踊るのは視界が悪く息も苦しいため大変しんどいとのこと。口の穴が小さいのでステージ中に水分補給も難しい。それでも客前でお面を外すことは絶対にない。並々ならぬこだわりを感じる。
■キャラクター設定
先程触れた、キャラクターを演じるという点について。演じている度合いはおそらくVTuber程度と推測される。キャラクター性をある程度守りつつ、中の人の人間性を活かしてOK、というレベルだ。
般若
あだ名は「キング」。オラついたリーダーキャラ。主にツッコミだが人当たりはきつくない。饒舌でマイクパフォーマンス担当。「O-MENZはもっともっと進化していくんで!」的な意識高めな煽りをするのはこの人。それでいてボケもできる器用さもあり、出番直前にステージから離れた場所でくつろいでおりスタッフに声をかけられて走って会場に向かうという定番の遅刻ネタをTiktokに上げている。
オリジナル曲ではラップを担当。実はボイパもできる。
おかめ
最年長、穏やかほんわか兄さんキャラ。たぶん素。時折メンバーから「楽屋でおかめに怒られた」というエピソードが飛び出すため、中の人は芸に厳しいタイプと思われる。が、おかめとしてはあくまで穏やか。Tiktokでおかめ個人のアカウントを持っており、動画アップや配信もまめに行う。(般若もアカウントはあるものの動画投稿なし)
個人アカウントでは投げキッスやハグなど視聴者に秋波を送る動画も多い。お面をつけた自分を最も楽しんでいるのは、実はおかめかもしれない。
隈取
あだ名は「くまちゃん」。オラついた筋肉キャラ。俺様パワータイプ。素が出るとチャラい系のお兄さん感があり、パワータイプキャラはかなり作っている印象がある。だが口調や歩き方まで徹底したキャラ造形は努力によるものに違いない。自信過剰な発言も多々あるが、お面をかぶっていることで不思議と鼻につかず愛嬌あるセリフに感じられる。SNSの撮影担当であり、撮影のオフショットで演者の立ち位置等を指示する姿が見られる。
2024年12月、プロレスデビュー。これもO-MENZの隈取というキャラクターがあってこその面白みであろう。
狐
あだ名は「きっつん」。紳士キャラ。一人称は「わたくし」、常に敬語。尊敬語や謙譲語もひと通り使いこなしている。配信などかなりカジュアルな場面でも絶対に敬語を崩さず、最もキャラを作りこんでいる様子がある。ただし口調は淡々としているため、乙女ゲーキャラのようなコテコテの甘さはない。テンパった時に出る天然ムーブはたぶん素。
阿形
あだ名は「あぎょたん」。最年少やんちゃ少年キャラ。無邪気系ではなく悪ガキ系。たぶん素。隈取と幼馴染。他の人がミスった時にいじりに行くのはだいたい隈取と阿行。一方、ライブ終盤で過去の辛い経験を話しながら涙するようなピュアな一面もある。
オリジナル曲ではボーカルを担当。伸びしろを感じるが透明感のある歌声をしている。ライブであの運動量の中で歌うのは半端じゃない。
このように、各々二次元めいたキャラクターを付与されている。だが特筆すべきはやはり狐だろう。おそらく本人にほかのメンバーよりも思慮深い面があり、敬語も違和感なく使えるため三次元の人間とはかけ離れた紳士キャラを与えることができたのではないだろうか。
これらのキャラクターづけを考案したのが般若だとすると、各々の性格と技量を見極め、「こいつならこのキャラ行けるな」と判断したと考えられる。見事な采配だ。
さらにそれを厳守させている点にも強いリーダーシップを感じる。一度は専業ダンサーへの道を諦めているという経緯からするに、中の人たちはおそらく20代後半〜30代だろう。いい大人の男性、しかも腕に自信のある(自己肯定感が高い)ダンサーが、アニメのキャラクターのような自己紹介をしろと言われて素直にできるだろうか。大手事務所が10代〜20代前半の若者をプロデュースしているなら理解できるが、(おそらく少なくとも始まりの時点では)般若が個人で動かしているプロジェクトだ。「これを実行すれば成功に近づける」と信じさせる実力とカリスマ性が般若にあるのだろうと想像させる。
■メンバーカラー
・般若 黒
・おかめ 紫
・隈取 オレンジ
・狐 青
・阿形 赤
メンカラはあるものの、衣装に必ずこの色が入っている等の縛りはない。
(そもそもO-MENZの衣装はモノクロが多く、デザイン違いで色味は全員統一というパターンがほとんど)
メンカラは主に個別のグッズやファンが推し面(誤字ではない)を表明・応援する際に活用される。なおライブへ参加するファンは、ペンライトに手作りうちわという、典型的なアイドルファンのスタイルだ。メンバーがうちわの文字を読んでは気さくにファンサする光景もよく見られる。
■ファッション
主にステージ衣装について記述する。初期は揃いのマウンテンパーカーにチェストバッグを装備し、面下をつけてキャップをかぶったスタイルが主流であったが、ここ1〜2年は衣装もグレードアップし、下記のようなコーディネートに変わっている。
般若
ロックテイストで、タイトな丈の短い革ジャンにスキニー、ジャケットを脱ぐとハイネックのタイトなノースリーブや黒のワイシャツ。ハーネスやシルバーアクセも多い。指ぬき手袋。ネイルが好きで、黒やシルバーをよく塗っている(セルフのジェルネイルらしい)。靴がとがっている。
短髪の銀髪が多い。金髪のこともある。
おかめ
真夏でなければロングコート、ロングジャケット。180cmはあると思われる長身を活かし、裾をはためかせながら踊る。インナーはワイシャツ、ロンTなど。まれに上着なしで半袖Tシャツも着るが、インに必ずコンプレッションウェア的なものを着て絶対に腕を露出しない。O-MENZは全員手袋を着用していることが多いが、おかめは特に手袋必携。
髪はオールバックのメッシュが多い。くるくるなのは天然パーマとのこと。襟足にひと巻きする程度の長さにしていることが多い。
隈取
黒系のツナギ。インナーは着ずに胸筋を見せることもあればタンクトップのこともある。軽装だとTシャツとカーゴパンツのような場合も。Tシャツの袖がないことも多い。たまにパーカーも着る。ドゥーラグ(スパンデックスキャップとも。ヒップホップファッションで見る水泳キャップのような帽子)をかぶっていることが多い。そのためあまり髪は見えないが、コーンロウなど様々な髪型をしている。
狐
スーツ。三つ揃いでベストがあることも。おかめと同じく腕を露出した服は絶対に着ない。まれに腕まくりをするとファンが沸く。手袋必携。
筋トレ好きで、パワータイプの隈取に匹敵する筋肉を持つが、ワイドシルエットコーデの隈取に対して狐の衣装はタイトなため腕や脚がパツパツ。
汗かきで、夏の野外ステージではシャワーを浴びたように汗をかいてシャツが全部体に張り付いているが、かたくなに長袖をやめない。
少しカジュアルだとジャケパン。さらに軽装の時はキャップにTシャツにジャージなどおかめよりスポーティな印象。
髪は黒。角刈りと自称しているが、前髪は分け目が右にあり七三分けする程度の長さがある。後ろはツーブロック的にかなり短く刈りあがっていることもある。
阿形
ゆるめ露出多めのタンクトップに何か羽織っているのが基本。上着はシャツ、スカジャン、ゆるめのジャケットなど。ロックダンスで上着をつまんで前身頃をパタパタさせながら踊る振り付けがあるためと思われる。
茶髪のさらさらショートボブが基本。
服装、特にステージ衣装は明確な基準を持っている印象がある。おおむね、シルエットだけで各人を特定できる程度のラインを守っているように思う。
ちなみに髪型は多少変わることもあるが、大きく逸脱してくることがないためこれもレギュレーションを決めている可能性がある。また、最近のステージ衣装ではあまり見ないが、キャップをつばを後ろにしてかぶっていることもある。
■ポーズ
個別に決めポーズを持っている。写真撮影、ソロダンスの終わり、曲の最後の締めなどで頻繁に使用される。このポーズを徹底させたのも般若なのか。慧眼である。
般若
こめかみに右手2本指でバキュン。なぜか、全員が指定のポーズをしていても般若だけはこのポーズをしていないことが多い。ただ、マイクを持っていたり立ち位置がセンターだったりするので特に違和感はない。
おかめ
横に軽く両手を広げる。すしざんまいの横に広げたやつ。ラスボスが「ようこそ」と歓迎しているときのポーズ。首をかしげて、顎をやや反らせる。よくダンサーがドヤ顔するときに取るポーズだが、おかめの面のせいか優雅さがある。
隈取
腕組みをしてふんぞり返る。ラーメン屋のポーズ。
狐
左手を胸に添える。執事が「なんなりとお申し付けくださいませ」と言うときのポーズ。指先は右わき近く、手のひらはやや上向き。右手は後ろ腰に回す。タイミングによっては足を揃えて一礼する。礼しないときはそのままスッと立つ。
阿形
右手で目元に横ピース。ギャル。手のひらは外向きの場合も内向きの場合もあり。
■ダンス
ダンススタイルは設定としてそうそう変えられるものではないため、般若が最初から狙って別ジャンルの人員を集めたか、複数ジャンルを踊っている人に「特にこのジャンルを得意ジャンルとしてくれ」と指定したか、もしくは偶然か、のいずれかになる。ただ、ここまで説明してきたキャラ付けとダンスのテイストが一致する部分が多いことは見逃せない。得意ジャンルからキャラ付けをした部分もあるのかと想像すると、匙加減が絶妙だと感じる。
般若
クランプ。ロサンゼルス発祥、激しいバトルスタイルのダンスが特徴。
「ストンプ(足を踏み鳴らす)」
「チェストポップ(胸を突き出す)」
「アームスイング(腕を振り下ろす)」
の3つの動作がベース。いずれも般若のソロパートで頻繁に見られる。熱い男・般若にふさわしいダンスだ。
ちなみに、「KRUMP」は以下が語源とのこと。
上記はキリスト教圏の思想を反映した言葉であるため意味合いは異なってしまうが、般若の異名「キング」を連想せざるを得ない。
おかめ
ポップダンス、アニメーションダンス。
ポップダンスの基本となるのは、体の一部だけを動かす「アイソレーション」という動作。おかめはダンスに対する情熱がひときわ強く、配信でダンスの話題になることも多いが、この「アイソレーション」という用語が頻繁に登場する。アイソレーションを活用した動きは以下。
アニメーションダンスは、ポップダンスの中の一ジャンル。アニメのコマ送りのようなカクカクした動きが特徴。いわゆるロボットダンスはアニメーションの要素に含まれる。なめらかに「スッ…、ピタッ」と動くさまは、おかめの穏やかなキャラクターともぴったりだ。
得意技は「パンケーキ」。立ったままで上体をどんどん後ろに倒し、パンケーキのように平らになっていく技。ソロパートで頻繫に披露する。
隈取
ブレイクダンス。いわゆる床でクルクル回ったりするあれ。
「トーマスフレア」床に手をついて体操のあん馬のように足を振り回す。狐やおかめも数回転は回れるようだが、隈取には到底かなわない。
「ウインドミル」手を床につかずに肩で回る。
頭で回る「ヘッドスピン」は隈取の技にはないが、補って余りあるパワーを持ち、筋肉で持っていく倒立系の技が豊富。ソロパートでは、倒立したまま足をどんどん後ろに反らせる技がよく見られる。
パワフルなパフォーマンスは、各人で回すソロパートの中でも一際目を引き盛り上がりを見せる。
狐
ポップダンス。おかめと同ジャンルであり、おかめと狐の「ポッパー組」で組んで踊る場面もたびたび見られる。おかめのしなやかな筋肉で実現する「スッ…、ピタッ」という動きに対し、狐は強い筋力を活かした「ザッ!バチィン!」という動きが特徴。超絶技巧で魅せるおかめ、パワーとテクニックで魅せる狐、という印象。
その力強いスタイルは、紳士キャラとややギャップがある面も。踊っている最中は指先や顎で客を煽るような紳士らしからぬ仕草も見せる。だが、ダンスの最後には胸に手を当てた執事ポーズを取り、しゃべれば敬語を崩さず、時に天然キャラが出る。このギャップが狐の大きな魅力でもある。
また、狐ならではの武器としてアクロバットがある。アクロバットでは側転からの側宙(サイドフリップ、膝を抱えた男側宙)、エアリアル(膝を抱えない女側宙)、バタフライなどを披露。隈取の回転技に並ぶ華やかさで会場を盛り上げる。倒立も可能。
さらに、オールジャンル対応できる器用さも強み。メインとするポップダンスのほかにロックダンスもこなし、阿形とのペアで踊ることもある。前述の通りトーマスフレアを1〜2回ほど成功させる様子も見られる。ユニゾンで踊る場面では、ジャンル違いの振付に苦戦するメンバーもいる中、狐はどのジャンルも卒なくこなしている姿を目にすることができる。
般若、おかめの「年上組」の配信では、振付を覚えるのは狐が最も早いという証言も。まさにオールマイティ。だが同じ配信で「キレが良すぎて逆にみんなとズレてる」という厳しい意見も出ている。
阿形
ロックダンス。腕をクルクル回したり指差しを決めたりするあれ。いわゆる中居正広のダンスで、「中の人は中居正広」というネタも見られる。
阿形のロックダンスの強みはキレと音ハメ。火花が散りそうなトゥエルやロックを決める。阿形の若々しいキャラクターとも一致する。
ロックダンスはストリートダンスのなかではメジャーなジャンルであるため、全員で踊る場面の振付に含まれるシーンもあるが、その際センターは必ず阿形。レベルが違いすぎて後方に置くと目立ってしまうのだろうと思われる。
この「できすぎてしまう」点についても、年上組の配信で「あぎょたんはできちゃうから」という遠回しな苦情が聞かれた。その前のめりな姿勢は、最年少の弾けるようなキャラクター性に通じる。
ファン向けのグッズ・サービス
さて、O-MENZが一般的なダンスグループよりも二次元めいたキャラクター性を設定していることがおわかりいただけたのではないかと思う。
続いて、今回のテーマである「O-MENZの2.5次元性」をさらに補強するために、O-MENZが提供するアイドル的なファン向けサービスについて紹介しておく。
■ファンクラブ
月額980円でチケット先行申込ができるほかメンバー限定ブログ記事、オフショットなどが閲覧できる。
■二次元ビジュアル
2023年より、お面を外した姿をイメージした二次元イラストを展開している。ライブ会場では、このイラストを使用した等身大パネルやグッズを目にすることができる。さらにこれをちびキャラ化したイラストや、お面ありの二次元ビジュアルも作成している。
顔を出しているアイドルでも二次元キャラを作成することは近年よくある動きだが、顔が見えない、かつ生身の人間にはないキャラクターを付与されているという点でO-MENZはより二次元に近いと言える。
■グッズ展開
上記の二次元イラストグッズに加え、各メンバーのアクスタ、アクキー、チェキなど。チェキには制服や着物などのコスプレ写真が多い。
■ファンミーティング
ファンとゲームをしたりお題や質問に答えたりする交流イベント。メンバー同士の仲睦まじい様子が見られる。客席に対する指差しや指ハートなどのファンサービスもいつも以上に多い。最後にはミニライブもある。
見ての通り、アイドルと同等のサービスやグッズ展開がされている。今どきはスポーツ選手や棋士、競馬の騎手などファンが応援する有名人は誰でもこうしたアイドル的なファンサービスを行う傾向があるが、お面をかぶって顔が見えないダンサーも例外ではないというわけである。
一般的な2.5次元コンテンツとの比較
検証も終盤に入る。O-MENZの2.5次元性をはっきりさせるために、一般的な2.5次元コンテンツと比較してみよう。
■2.5次元舞台
2.5次元コンテンツの代表格。アニメを舞台化する際、アニメならではの見た目や性格を限りなく三次元で再現する。キャラクターと役者が同一視され、そこに価値を見出す傾向も見られる。
基本的には既存の二次元作品が題材となるため、演じる役にはネタ元のキャラクターが存在することになる。
O-MENZとの共通点:二次元的なキャラクターを付与され演じている
O-MENZとの相違点:演者の顔が出ている、元になるキャラクターが存在する
■アイドルアニメの声優ユニット
「ラブライブ!」等に代表される、劇中と同じ編成で声優がユニットを組みステージを行うもの。きちんと見たことがないためはっきりしたコメントはできないが、ステージではキャラクターにかぶせた言動を取るもののあくまで声優として出演しているため、他のコンテンツより三次元性が強いと思われる。
O-MENZとの共通点:演者とキャラクターの境界の曖昧さ(演者寄り)
O-MENZとの相違点:出演しているのは基本的にはキャラクターではなく演者
■VTuber
キャラクターという仮面をかぶり、演者の人間性も活かしつつ演者の名前は出さずに演じるという思想はかなりO-MENZに近い。ただしビジュアルは二次元。
O-MENZとの共通点:演者とキャラクターの境界の曖昧さ(キャラクター寄り)
O-MENZとの相違点:姿が二次元である
■着ぐるみキャラクターショー
ディズニー、USJ、サンリオ、アンパンマンやプリキュア等のアニメキャラクターショー。二次元作品を三次元に移植しているという観点ではまさに2.5次元だと個人的には考える。ただ、演者の個性は露出させず元キャラクターを再現するのが大前提。
O-MENZとの共通点:姿が三次元である
O-MENZとの相違点:演者は完全にクローズで固定ではない、元になるキャラクターが存在する
■スーツアクター本人が生で声を当てる着ぐるみキャラクター
Eテレに詳しい人なら、ワンワンやサボさんと言えば通じるだろう。彼らは固定の演者がスーツアクターとしてキャラクターを演じつつ、マスクの中から生でセリフをしゃべっている。この方式は、ご当地キャラやローカルヒーローでも多く採用されている。代表格はふなっしーだ。
このパターンは、基本的な存在としてはキャラクターであるのだが、言動に演者の人間性が非常に出やすい。Eテレ視聴者やふなっしーファンには「中の人が変わるならキャラクターそのものを卒業させてほしい」と思う人も多いはずだ。狐と隈取の代替わりをリアルタイムで経験したファンの中には、同様の思いを抱いた人もいるのではないだろうか。
(書いた後に気づいたが、このパターンはO-MENZとの共通点が非常に多い。このままでは「O-MENZはふなっしーである」というタイトルに変更することになってしまうが、ひとまず現状で進めさせていただく。)
O-MENZとの共通点:演者固定でキャラクターを演じ、声も同一人物が担当する
O-MENZとの相違点:全身を覆う衣装である
顔が隠れているという点では、他にもMAN WITH A MISSIONやAdo、聖飢魔II、仮面ライダー、プロレス、能・歌舞伎などと比較しても面白そうであるが、きりがないため2.5次元でアイドル性があるコンテンツに限らせていただいた。
それにしても顔が隠れているコンテンツとはこれほど多いものだったのか。顔を隠すことによる効果は想像以上に大きそうだ。古くは縄文弥生の遺跡から出土した仮面もあるという。「お面の力を借りてストリートから世界へ」の前口上、まったくそのとおりであるとしか言いようがない。
まとめ:O-MENZの2.5次元性
それでは結論に入ろう。
さまざまな2.5次元コンテンツを調べてみて、その多くに共通するのは「三次元感がオミットされ、二次元感が付与されている」という点だと感じた。
そしてO-MENZは、三次元の顔を隠すことでその人本人の顔面と性格をオミットし、ルックスに左右されないお面をつけ、二次元感あるキャラクター性を付与している。(中の人の顔面や性格が悪いという意味ではない。隠れていることに意義があるという主旨である)
さらに、ここまで説明してきた想定されるレギュレーションやファン向けのサービス等を見るに、アイドル的な方向性を持たせようとしていることは間違いない。
つまり、O-MENZは2.5次元アイドルなのだ。
付け加えれば、他の2.5次元コンテンツと比較してオミットされている部分がやや少ないため、三次元感強めの2.5次元コンテンツだと言えるだろう。
アニメキャラやアイドルめいたキャラクターづけの二次元感と、ダンスの実力と中の人の人間性が醸し出す三次元感の絶妙なバランス。
これが、O-MENZの魅力を形づくっていると言うわけだ。筆者がO-MENZにハマった瞬間、おそらくこの般若が仕掛けた計算づくの罠に知らずかかっていたのであろう。
補足:2.5次元アイドル的エピソード
余談ではあるが、O-MENZのキャラクター性とアイドル性を象徴するような動画があったため2つ紹介する。
■エピソード1.「うるせー」と言わない狐
フリーライブのMC中、黄色い声を上げるファンを「うるさいっ!」といじる般若。それを気に入った阿行が、自分もやりたいと言い出して客をキャーキャー言わせては「うるせっ!うるせっ!」と楽しんでいた。
すると般若が、「きっつんも『うるさい』って言ってよ〜」と絡み始める。狐は「いやいや…」と引くが、大きな歓声を上げるファンたち。紳士敬語キャラの狐は「うるせっ」と言っただろうか?追い詰められた狐が発した言葉はこれだ。
「皆様、静粛に」
てっきり「うるさいですよ」くらいの逃げ方をすると思っていた筆者は度肝を抜かれてしまった。とっさにこのセリフを出すには、「狐」のキャラクターを相当練り上げていなければ不可能だろう。
■エピソード2.「夢女向けのファンサ」は意図的である
般若がTwitterにアップしている「おやすみ明太子(※明太子は般若のファンネーム)」というシリーズ動画がある。
いわゆるデート動画のようなもので、上記は「風邪の看病に来る彼氏」設定だ。この動画について、般若とおかめの「年上組」が語っている配信を引用する。
つまり、ファンを獲得して離さない施策のひとつとして、マメにデート動画をアップしている、というわけだ。もちろんプロ級のダンスありきでギャップを狙った手法ではあるが、般若の策士ぶりが垣間見られるやり取りであった。
ほかのメンバーも、セリフこそないものの音楽に乗せてデート動画を撮影しており、事実、狐のデート動画は直近の投稿では一番の伸びを見せていた。
狐たちの配信の切り抜き動画を見ると、このデート動画について「狐伸び過ぎ」「謝罪してw」などといじられる狐を確認することができる。
一方、同じ配信では「まじめに踊った動画は伸びないのに」という愚痴も出ている。般若はそうしたジレンマを割り切って、ひとりでも多く動画を見てもらえれば、という意図を持って「おやすみ明太子」を続けているのだろう。プレイングマネージャー(プレイングプロデューサー?)であるため自らで実行してしまってはいるが、O-MENZのアイドル性を保つ施策を意図的に取っていることが示されており、興味深く拝見した。
(私見だが、普段からモテていなければあの演技をシラフでできるとは思えない。般若はお面を取っても相当な色男である可能性が高い)
※「共犯者」を用いなかった理由
※あくまで個人的な意見であり、こうした考えを強要するものではない。
締めに入る前に。ここは読み飛ばしてもらっても構わないのだが、今回の記事では、O-MENZのファンネーム「共犯者」を使用せずに進行してきた。その理由は、この用語をややセンシティブに感じているからだ。
元を辿れば、O-MENZの肩書である「ダンステロリスト集団」に対する言葉として設定されたのだろう。「ダンステロリスト集団」、突如街に現れてゲリラ的に踊って去っていくお面のグループには、確かにぴったりのネーミングだ。
だが、世界情勢が不安定である今、「テロリスト」とという呼称を気軽に使って良いものなのか、筆者には判断しかねると感じている。
「共犯者」についても同様だ。「いたずらの共犯者」というようなネタ的な使用方法もあるため一概に問題だと決めつけることはできないが、ややためらいを感じてしまったため今回は控えることとした。
重ねて言うが、これは公式サイドやファンにこう名乗ることをやめろと呼びかけるものではない。また逆に、今後筆者が継続してそう自称しないと宣言するものでもない。現時点で個人のポリシーとして行っているのみだと了承いただければ幸いである。ただ、今まさにストリートから世界へ駆け上がっているO-MENZにとって、いつかは向き合わねばならない問題なのではないだろうかとひそかに思っている。
最後に
2024年に初の全国五大都市ツアー「AREA ROCK」を大盛況のまま終えたO-MENZ。次に控えるのは2025年5月24日(土)のワンマンライブ「ALL IN」だ。
その前に、フリーライブツアー「百戦錬磨-賽-」が2024年12月の東京を皮切りに行われる。
筆者はこの百戦錬磨で初めて生でO-MENZを見る予定だ。ワンマンについては距離的な問題もあり現状参加を予定していないものの、百戦錬磨でチケットを手売りなどされたらフラフラと購入してしまう可能性は否めない。O-MENZが自分をどこへ連れていってしまうのか、期待と不安が入り混じった気持ちだ。
そしてみんながうっすらずっと気にかけているであろう、Tiktok1000投稿目。そう、彼等は「1000投稿目に何か起こる謎のお面集団」なのだ。この記事執筆時では、2024年11月4日の初全国ツアー完走の動画が「残り69」として投稿されている。記念すべき時に間に合ったことを僥倖とし、その日を待ちたい。ステージで踊る彼等と共に、般若の手のひらの上で我々も踊り狂おうではないか。
さて、O-MENZは2.5次元アイドルであると結論付けたならば、私が推すのはあくまで2.5次元アイドルのO-MENZだ。中の人であればしないであろう言動をO-MENZたちがするのならば、私も遠慮なく言わせてもらおう。
狐ェッ!結婚してくれっ!