『家族オークション』 ショートショート
大きなホールにはよく肥えた豚のような成金どもが集まってきていて、品定めのために狭い椅子にぎゅうぎゅうに腰掛けている。どいつもこいつも金持ちだが品がない。それもそうだ、ここは最低の場所だ。街の娘を攫ってはここで人身売買が行われる。
ステージにはすでに眩いスポットライトが照らされていて、会場の奴らは良い商品が出てくるのを今か今かと待ち構えている。
俺だってこんなところ来たくない。ここに来てる奴ら全員ぶっ飛ばしたいぐらいだ。でも来るしかなかった。それに、今ここにあるスーツケースには俺の全財産が入ってる。当然だ、娘を取り返すためだ!
娘は2週間前、私と些細なことで喧嘩して夜に家を飛び出した。すぐに帰ってくるだろうと考えていたが、私が馬鹿だった。娘は人身売買グループにさらわれたのだ。それから妻も…娘を探すと行って、飛び出してしまった。彼女も今、どこへ行ってしまったのか分からない。俺が門限を破ったというだけであんなに怒鳴りつけたばかりに大事な妻と娘を危険な目に合わせてしまった。だが情報ではここに娘がいるのは確実だ、もしかしたら妻もいるかもしれん。二人共取り戻すんだ。
全財産が入ったスーツケースを俺はじっと見つめた。
するとその時スポットライトがすぅーと動いて「バットジェントルマーン、アンド、グッドジェントルマーン!スタンダップ プリーズ!!へへへ!」
と怪しげなマジシャンような格好をした如何にもうさんくさい気持ち悪い顔面をした司会者が出てきた。
「おい!お前!!なんだカニみたいな顔しやがって。ちょぼちょぼと口を動かして気持ち悪い!死んでしまえ。家族を返せ!」
しかしそんな声は歓声の中では、司会者には届かない
「さぁ〜て、それではさっそく一人目の商品の登場だ〜〜」
汚い豚共の歓声の中、出てきたのは縄でキツく縛られた美しく可憐な少女だった。
「あぁ…酷い…酷すぎる…!」
少女は次々と値段が付けられ2億円で売り飛ばされた。
「は~い!これで決まりですね。良かったですね。2億円ですよ〜!じゃあお客様のトラックに積んでおいて〜」
少女が縛られたまま舞台袖へ運ばれていく。
「さぁ〜て、続いてはこちらだ〜」
と運ばれてきたのは、紛れもなく俺の娘だった。
思わず俺は叫んだ。
「お、お、おい!お父さんだ!!ここだ!ここにいるぞぉ!」
その声に辺りは少しザワついた。
娘はそれまでうなだれていたが、父の声を聞き目が合うと娘は暗闇のどん底から一筋の光を見つけたように少しの安堵が見られた。しかしまだ決まったわけではない。奴らは平気で億単位の金を出す人間だ。
「さぁ…それでは、この小娘を1000円からスタートだ!!!さぁどうするどうする?!」
「1100円!」と俺は叫んだ。
しかしその叫んでから叫んだ口のまま俺は少し固まって、あ?と思った。
「うん?ちょっと待てよ…1000円?」
んんんんん?さっきの娘は確か200万円からスタートしたよな、、1000円ってなんだ?1000円……1000…
すると左の奥の方から1人「1500円!」
いやいや、そうか、やはり簡単には娘を取り返せないらしい。ここは思い切って「2000円!」
するとまた左の奥の奴が「2200円!」
ここで俺は気が付いた。というかさっきから薄々気がついていた。なんか…会場が盛り上がってないぞ…。
私の娘が登場してからずっとこの感じだ。なんだこの何もしてないのにずっとスベってる感じ…。私は、娘を見た。
娘は泣きじゃくっていた。あぁかわいそうに、本当にかわいそうだ…だがしかし思う。
泣き顔が…なんというか、あんまり…というか、なんか…可愛くないな。
あれ?と思った。俺はずーっと娘を愛してきた。でもどうだろう?よく見るとあんまり可愛くないな。正直付き合ってと言われたら断る…いやいや!何考えてるんだ俺は…はっ!
「3000円!」
危ない…値段を言うのを忘れてた。今のところガストに行くときの出費と対して変わらんな。
「3300円!」とまた左奥の男。
いや、ちょっと待て、逆に何なんだあいつは、娘のどこが良くて張り合ってくるんだ。腹が立ってきた。親族でもないのにあの娘に3300円出して買うってどういうことだ。逆にいらないだろ。邪魔だろ普通に考えて、そんなに可愛くもないのにな。全く…さっさと持ち帰らせろバカ。
「えー…3500円」
「3800円!」
とその時、娘が叫んだ!
「パパ!お願い!助けて!早くここから助けてよ!ねぇ…こんなこと言うのおかしいかもしれないけどお金たくさん持ってきてるんだよね。いくら使ってでも絶対に助け出して!お願い!」と泣きじゃくった。
「バカヤロー!!」と俺は言った。
「え…?」
「そんなの当たり前だろ。大切な娘だ。絶対に誰にも渡さない!」
と言ったものの、しかしいくら使ってでもというのは話が別だ。確かに娘は取り返したい。しかしだな。この戦況見よ、我が娘よ。お前は、、あんまり…というか…かなり…人気がない…!なんか、正直お父さんもショックだよ…!1人モノ好きなのが俺と張り合ってるだけだ。もう正直、あの左奥のやつだったら負けてもいいかぐらいに思ってしまってる…!しかし俺は絶対に負けない。よし!
「4200円!!」
俺は左奥の奴を見た。「くそ!」と悔しがっている。4000円で、諦めんのか!お前!もうちょい金を使わせろこの野郎。銀行でおろすの大変だったんだぞ。財布で行けたじゃないかよ。
「パパ…ありがとう。」
と言って娘は捌けていった。
ああ、娘よ。正直、痛くも痒くもないよ。
「さぁ、やっと終わりましたね。それでは、続いての商品だ〜〜」
と言って出てきたのは紛れもなく俺の妻だった。
「は!お前!大丈夫か!」
という声にまた周りがザワついた。
「さっきの娘と顔が似てると思ったら…」
「また、つまらん時間が流れるよ」
「またかよ…もういいよ…」
「さぁ〜て、それでは、この女は取り引き…1000円からスタートだ!!」
俺は叫んだ!
「62万円!!!」
ショートショート
終