『女子高生は先生を許さない 』 ショートショート
ここはとある女子高等学校。
2年D組の教室は薄暗い廊下の一番奥の端っこに位置する。この教室での出来事である。
このクラスの担任の男、中島はメガネをかけた温厚そうないかにも普通の先生だ。身長も普通、体重も普通、顔も普通、駅に20人はいそうな顔である。愛想が特段良いわけでも無いが滅多に怒らないので評判も普通、生徒との仲の良さも並である。
朝礼の時間だ。いつもなら中島が出席確認をして終わりだが今日は少し違った。
「みんな、今週はスマホ禁止週間だ!」
「えー!」と一同、驚きの声を上げる。
「先生は別にスマホは良いと思うんだが、授業に集中してない生徒が最近あまりにも多いということで会議で決まったんだ。悪いが今日は全員のスマホを先生が預かる。ほら、みんな持ってきなさい」
生徒らは仕方なくスマホを教卓に置いていく。
「スマホぐらいいいじゃんね」と皆それぞれに愚痴りながらも、全員のスマホが回収された。
「よし、数もピッタシ。全員分あるな。で、本来ならこの後5分のトイレ休憩だが、回収に意外と時間がかかった、あと15秒で授業開始のチャイムが鳴る。よし、トイレに行きたいやつは後で行かしてやるから、とりあえずもう全員一旦席につけ!」
「え〜!」と言いながらも先生の言うことを聞き、ばらばらと皆それぞれの席へ戻り始める。
今日は欠席者ゼロだ。次の授業は中島が担当する数学。中島は黒板の真ん中に腕を組んで仁王立ちし瞑想するようにじっと目を閉じてその時を待っていた。
間もなくしてチャイムが鳴り全員が席に座る。
いつもはチャイムが鳴れば教室が騒がしかろうが気にせず授業を始める中島が今日は黙って目を瞑って仁王立ちしたまま。いつもと違う、何だかおかしい。教室が少しザワつき始めたところで中島は決意したように目をパチリと開きそして静かに口を開いた。
「諸君…君たちは女子高生だ……。」
それに対し「なに言ってるの、あたりまえじゃんw」と言ったのはクラスのムードメーカーで力持ちの前田だ。ゲラゲラと笑いが起きた。しかし中島は依然真剣である。
「あぁそうだ。お前らにとってはそれは当たり前のことだ。だがなあの青春時代ははるか10年前という私の身にもなってみろ…。毎日同じ事しか起こらないつまらん退屈な人生、そんな俺の目の前に広がる可愛い制服を着た女子らの無防備な太もも…」
担任の信じられない発言に教室にいる生徒全員が耳を疑って教室はじんわりと妙な静けさに包まれた。
その空気を突っ切るように中島は話し続けた。
「いや、もっと端的に言おうかな。俺はお前らのことを毎日毎日、性的な目で見ている!何なら犯したいと本気で頭で想像する!実際にはしないだけで頭の中はそんなことばっかりだ!」
誰も席こそ立たないがついに教室内は混乱でかなりザワつきで始める、皆あたりをキョロキョロして「これヤバイよね」と目を合わせる。
「おーい!静かにしろ!あぁ…そこで今日はもう我慢の限界だ。お前らを一人づつ犯す!俺は射精がしたい!」
いつの間にか中島の目はギラついて血走っている。
あまりの暴言に教室はむしろ静まり返り冷めきっていた、それはそこにいる女子生徒全員が恐怖で血の気が引いたのをそのまま表現しているようだ。
「すいません!」
とそんな空間に1本の矢を打つようにハッキリとした声でピシッとまっすぐ挙手をして声を出したのはクラスのリーダー的存在の山野だ、弓道部でなんと2年生にして部長である。席は窓側の端っこ、全体6列の前から5列目の位置だ。
「どうした山野。…そうだ、ちなみにお前はショートカットで顔も可愛い。先生のお気に入りの一人だ。有力なターゲットだ。」と中島は山野を目をしっかりと見たまま不敵な笑みを浮かべた。
「大丈夫?」と山野に小さく声を掛けたのは横の席に座る美術部所属の『優しすぎる星野さん』で定評の星野だった。
「ありがとう星野さん。……………先生!あなたの言ってることはめちゃくちゃです。今なら聞かなかったことにしますから、どうか取り消してください。お願いします。こんな事やめましょう。」
「ほほぉ…交渉かぁ。でもな山野、良いか?俺は今36人の人間を相手にしてる。お前と交渉が成立したところで他が裏切ったらどうなる?交渉決裂だね。俺も馬鹿じゃない。それにもうとっくに俺は覚悟を決めてここにいるんだ。お前らに俺の精液を与える!それだけが今日の俺の目標だ!」
と中島が言い終わったところで突然、クラス1頭の良い古川が急に席を素早く立って後方の扉の方へと全力で走っていった。
中島は全く動じなかった。
古川の『とにかくここから逃げよう作戦』はなかなか良いものだと皆が思った。古川に続いて皆一斉にドアへと向かいごった返した。
しかし
「開かない!!」と古川が叫ぶ
「まぁまぁ皆落ち着きたまえ」と笑みを浮かべながらこちらへと一歩づつ近づいてくる中島に皆が「キャーー!!」と悲鳴を上げて逃げだした。
狭い教室はもうパニック状態だ。過呼吸にもなりながら手を取り合ってなんとか立ち上がって逃げる。恐怖で足が動かないながらもドタバタと皆が助けを求めてたどり着いたのは、このパニックにも動じず唯一席を全く動かず様子をじっと冷静に見ていた山野のもとだった。
「やっぱり。アイツ、さっき古川さんが動いても全く動じなかった。先に策を取られてたんだわ」
女子生徒皆が山野の席を取り囲むようにして塊になって中島と相対した。
「残念でしたあ!鍵は全部俺がロックしちゃいましたよ〜ん。窓は全部接着剤でギチギチに固めたよ。しかしふーん…ここまで抵抗されては、仕方ないですね。先生!」と中島は掃除用具のロッカーをトントンと叩いた。
「は〜い」と野太い声、と共に飛び出てきたのは笑顔がカーネル・サンダースみたいで生徒から有名な学年主任内田先生だった。バタバタとホウキも何本か倒れて出てきた。
なんと内田はすでに半裸だった。勢いよく出てきたのでその余韻でブツがぶらぶらと左右に少し揺れている、汚い。また悲鳴が上がる。しかしそれが余計に内田を喜ばせる。
「いやぁこうして反応があると興奮するね!最高だよ!あぁぁあ!もう早く襲っちゃいましょうや!」
「まぁまぁ、楽しみは我慢したほうが気持ちよさ5倍ですから。さぁ一旦こちらへ」と中島は半裸の内田を黒板の前まで案内した。
「しかし、どうしますかねぇ」と中島
「まずは誰からいくかさっさと決めましょうよ。ほら見てください。もう固くなっちゃいましたよ。ふへへ」と内田は自分のブツをベタベタと触りながら言った。
「やっぱり最初は何も知らなそうな清楚な子がいいですよねぇ」
「じゃあ星野じゃないですか?最初はあの子を捕まえましょうよ!」
それを聞いた星野は恐怖でただ震えていた。山野はその星野の腕をしっかりと掴んだ。そして星野の顔を見て小さくこう言った。
「星野さん、大丈夫、私達が付いてるから。ねぇみんなも、絶対に気持ちで負けちゃだめよ。よく考えて、こっちは36人相手はたったの2人。しかも奴らのやってる事は明らかな犯罪。もう完全に人生を棒に振ってまで私達に襲いかかるつもりだわ。正気じゃない。本気で立ち向かわないと何するか分からないわよ。アイツらがこっちへ走ってきたら皆動ける?あんまり怖がってたら足が動かなくなるわよ。まずは気持ちをしっかり持つの」
「でもこの後どうするのよ」と前田。
「そうね」と山野は変態2人を睨みつけるように一瞥した。
2人は何やら黒板に全員の名前を書き始めていた。
「じゃあ最初は星野を2人で上と下同時にヤッちゃって、次どうしますか!アハハ!夢が広がりますね!」と中島
「そうだな…いやぁしかしやはり名前が分かるとより一層なぜだか興奮しますねえ。じゃあ次は古川がいいでしょう!なんと言っても賢いというのが良い!そういう子をめちゃめちゃに汚してやりたいんですよ!!」
「アイツらもう恐怖で私らを支配して勝ったつもりでいるわ。まだ時間はある。作戦を立てましょう。奴らに地獄を見せるのよ」
ここで普段は物静かな木村が口を開く
「やっぱり、数は圧倒的に多いんだから全員でのしかかれば絶対に取り押さえられるよ。せーので皆で行こうよ」
「…いや、それは駄目よ。危険だわ。悔しいけど体格も力も明らかにあっちが優勢だわ。この狭い教室で全員の力を上手く合わせられるかどうか微妙。それに殆どの人があいつらに触れるのも気味が悪いほど嫌悪感を感じてる。いざ目の前にして腰が引けたら、状況は逆転する。そのまま捕まって人質が一人でも取られたら終わりよ。犠牲者が必ず出るわ」
その意見に前田が続いた。
「それにのしかかればアイツら喜びそうだよ。なんかそれは胸糞悪いんだよな。しかも山野の言うとおり多分目の前にしたら気持ち悪くて逃げたくなると思うわ。」
「そうね。だから前線は勇気のある少数精鋭で行きましょう。それから他は後方からの攻撃援護。さらにターゲットが定まらないように星野さんや古川さんを守りながら、皆左右にバラけて…」
「でも待ってよ。あの変態に掴みかかれる勇気のある人って今ここに何人ぐらいいるのよ」と前田は皆の顔を見た。
「ほら、皆うつむいてるわ。無理よ。もう精神的にボロボロだわ。それに私だって怖い。多分アイツらを捕まえに行くのは手伝えないわ。」
「じゃあもう私一人でも戦うわ」
「それは絶対に無理だよ」と木村がつぶやく
「じゃあどうするのよ」
「え…でも…。そうだ、何か武器。せめて何か相手を攻撃出来るもの。」
「あ、あの。椅子は……どうかな?」と星野
「いい案だけど、掴まれたら、おしまいよ」
何かアイデアを思いついた前田が喋りだす。
「投げればいいのよ。私、腕力には自身があるし遠距離戦なら戦えるわ」
「1つの攻撃方法としてはいいわね。ただ時間稼ぎにしかならないわ。何か決定打を…」
「山野さん…私」と声を出したのは星野と同じ美術部所属の藤田だった。
「これ」と藤田が持っているのは彫刻刀だった。
「藤田さん…!それ、とても良いわ。なんで持ってるの?」
「いや、私美術部でたまたま彫刻を今やってたの。ロッカーがすぐ後ろだからもしかしたら使えるかなと思って…持ってきたの」
「絶対に使えるわよ」
「ちょっと待ってよ、こんな鋭いもの振り回したら誰か怪我するんじゃない?」と木村
「振り回さない。一発でやるわ」
「やるって、もしかして先生を?」
「えぇ、もうあいつは私達が知ってた中島じゃない。狂ってるわ。だから全員を完全にここから救うにはそれしかないの。…殺すわ。みんなは怖がらなくていい、手をかけるのは私だから」
中島はついにカチャカチャとベルトを外し始めた。
「さぁさぁ内田先生。そろそろですよぉ」
前田が慌てて山野に話しかける
「ねぇ私達はどうすればいいのよ!」
「…決めたわ。ねぇみんな、怖いだろうけど最後の力を振り絞って、私が合図したら横にバラけて、もちろん星野さんの事は隠してね。そしたらアイツらはヤケになって二手に分かれて手当たり次第来る可能性があるわ。そこで前田さん」
「うん」
「まずは内田に椅子をぶん投げて。アイツはメタボだしそんなにすばやく無い、きっと命中しなくてもそこそこうろたえるわ。そして次は…星野さん…!」
「あ…はい」
「申し訳ないけど、星野さんにはこのタイミングで相手の注意を引くために声を出してほしいの。中島が気を取られてよそを向いたとこでまた前田さんが椅子を投げるのよ」
「いくらでも投げるわよ!」
「中島は普通の身体能力よ。侮れない。だから先に殺る。奴が慌ててるところで私が前に走り込んで首を掻き切るわ。…みんなには1ミリも触れさせない…!」
と言ったところで、遂に中島と内田は動き始めて少し小走りでこちらへと近づいてきた。
それからの出来事は全てが一瞬の事である。
「みんな!」と山野が言うと、女子たちは一斉に左右にバラけた。
すると中島と内田はどちらへ行こうかと一瞬足踏みしてそれから内田は廊下側の左へ、中島は窓側の右へと分かれた。
「今よ!」
前田が内田に向かって肩をふりきって全力で、椅子をぶん投げた。
椅子は放物線を描くこともなくレーザービームのように内田へとまっしぐら。なんと椅子の脚が内田の目にクリーンヒットした。
「ナイス!」
しかしそれを見た中島が激怒する。
「お前ら歯向かいやがって!」とまっすぐ山野を見てこちらへと走ってくる。
そこで廊下側に居た星野が声を出す。
「先生!中島先生!」と甘い声
変態馬鹿教師は「えへ?」とその声に釣られて一瞬、よそを見た。その隙を逃さず、前田が再び椅子をぶん投げた。
そのぶん投げたのとほぼ同時に山野が彫刻刀を手に、中島の方へと走り込む!
椅子は中島の頭にこれまたクリーンヒット!
続いて山野が中島に斬りかかろうとした、その時。中島がその椅子を両手で払うようにしてはねのけた。その椅子は山野の方へと飛んできて
「うわっ!」と山野は驚いてその場で転んでしまった。彫刻刀がカランと床に転がる。
「山野…テメェ!」と中島が倒れてる山野に襲いかかろうとした。
それを見て前田はすかさずもう一脚椅子を無我夢中で放り投げた、今度はそれが中島の肩に思い切りあたった。
「このやろう!」と今度は中島が前田に気を取られた隙に山野は彫刻刀は拾い、横に思い切りブンと振って、中島の首元を平行に切り裂いた。
「死ね!」
脈を切ったので真っ赤な血がビシャャャア!と山野に向かって飛び散った。
「ぐわぁぁ」と中島はもがき苦しんでやがて、山野の上へと覆いかぶさる様にどさりと倒れ込んだ。
「うわ…最悪だ」と血まみれの山野は中島を手で押しのけて立ち上がった。
「大丈夫?」と前田が駆け寄ってきた。
「椅子が跳ね返ったときに少し自分の腕を切っちゃったわ…でもまだ大丈夫」
「なんか、ごめん」
「いいえ、とてもいい援護だったわ。2個目の椅子が無かったら私あのまま襲われてた」
一方、内田はまだうろたえたままだった。その上、目の前で中島が死んでむしろ怯えている。
「こ、こ、こうなったら。もうどうにでもなれ!」とヤケクソになった内田は女子がいる方へ体当たりしようとした。
「いけない!油断した!」
とその時、怯える女子の塊の中から1本の槍!ではなくホウキが飛び出した。
「や〜!」と言って出てきたのは後ろで隠れていた星野だった。その姿は足軽の如し。
星野は怖いからかなんと目を瞑っていたがそのおかげかそのまま躊躇なく真っ直ぐとそのホウキは内田のメタボ腹へとグサリと刺さりそのまま後ろへと内田はあっけなく倒れた。
「星野さん!ナイス!」と山野は机を飛び越えすかさず内田の眼前へと彫刻刀を突きつけた。
「もう観念しなさい!アンタは殺さないわ。しっかりと罪を償ってもらう。さぁ教室の鍵はどこ!出しなさい!」
「あぁ、もう分かった、降参だ。鍵は教卓に入ってるよ」
前田がすぐに確認した。
「あったよ!」とチャリーンと鍵が鳴る。
すぐに鍵でドアを開けた。ガチャンという音がしてドアがガラガラと開いた。
その瞬間「あぁ良かった」と山野はやっと安堵に包まれた。
「終わったんだ」
山野は力が抜けてその場に座り込んだ、やがて涙がポロポロと溢れてきた。
みんなが山野の方へと集まる。
「ありがとう山野さん」と口々に皆が言う。
「ううん。みんなが協力してくれたおかげだよ」
「いや、山野さんが居なかったら。私達どうなってたか」と木村
「しかし前田の腕力にも本当に驚かされたわ」
「あははは!やめてよぉ」
とその時、ピンポンパンポーーンと放送がなる。
「2年D組の皆さん…こんばんわ…私は…この学校の…校長…町田…京子…です。」
「え、何この放送」と木村
「いや、知らないけど」
「皆さまの…戦いっぷり…実に…素晴らしい…もの…でした。」
とその時空いたドアからその校長先生がスタスタと入ってきた。
「皆さま、えーお疲れ様……あ、山野さん」
「え…はい」と目が合う
「あなたの戦い方、実に勇敢で素晴らしかったわ。でも1人完全に殺しちゃったのはナンセンスね。動けないくらいにしとかないと…」
「あ、あの…なんですかこれ」
「まぁ戸惑うのも無理ないわ、これはねまぁ一種の訓練よ」
「訓練…」とまだみんなも状況が理解できず困惑している。
「うん、まぁあなた達のための訓練なのよ。最近教師が生徒に手をかける事件が多発してるの。そこでリアルなAIロボットを使って訓練しようって決まったのよ。あ、そうだ、だからこれは殺人にはならないわよ、安心して、ウフフフ。それでその一発目が今日。だからこれは全クラスでやってるわ。最後まで行ったのはこのクラスだけよ。他のクラスは全部襲われるギリギリのところまで行っちゃって、コッチで強制終了」
「そんな……AIロボット………でも!みんな、私も含めてこんなに怖い思いしたんですよ!一生のトラウマですよ!酷いです!怪我だってして…この先の人生ずっと背負い続けなくちゃいけないかもしれない…!」
「まぁ、そんなに怒らないでよ。私だって意地悪してるわけじゃないの。それに中島先生そっくりのこのAIロボットを作るのも苦労したんだから」
「もう、私達。中島先生の顔見れませんよ!ふざけるな!」と山野は彫刻刀を拾って強く握りしめた。
「ちょっと山野さん…」と周りがザワつきはじめる。
「私が…私が…どれだけ怖い思いして…!」
「アハハ! 山野さん、大丈夫よ。そんな傷いつか癒えるわ。あ、そうだそれに先にリタイアしたクラスみんなでこの教室をモニタリングしてたの、パブリックビューイングみたいで楽しかったわよ」
「許さない…」
「は?何を?許さないってあなた馬鹿w?」
と次の瞬間、山野は校長の脳天へと彫刻刀をブスりと突き刺した。
「ふざけるな!死ね!!!」
デデーーーーン
〜the END〜
ピピピーーーーとやかましい電子音が耳に鳴り響く。
「はーい終了で〜す」と女の声
「あぁ…はい。…ううん?」と男はチェアから起き上がった。
ゴーグルを外してぐぅーと伸びをしたあと、あたりを見渡すと青く透明のドーム型の建物の中で銀色のリクライニングチェアが列になって並んでいてそこに自分と同じようにゴーグルをつけたたくさんの人々が寝ている。
「あぁ…そうだ、これはVR体験だった。あれで終わりか…しかし思ったより疲れたな…うーん」
時計を見ると時間は1時間経っていた。
すると女の店員が話しかけてくる
「どうでした?未来学校生活変態教師討伐編。楽しかったですか?なかなか強烈でしょ。ぜひレビューの方も後でお願いしますね」
「いやぁ、今まで見たVRドラマの中で最もスリリングだったよ。疲れたけど、楽しかった。もうちょっと短くてもいいかもね」
「没入感はどうでした?」
「あ〜もう毎度のことだけど本当にリアルすぎるよ。本当の人生みたいだよ」
「あはは、本当の人生って何でしょうね」
「……さぁ?」
リリリリーーーン
「あぁ、何だ夢か。ずいぶんややこしい夢だったな」と机から居眠りした顔を上げる。
キーンコーンカーンコーン。チャイムがやかましく響いて担任が教室に入ってくる。
「さぁ楽しい楽しい授業の始まりだよ。女子生徒諸君」
ショートショート
終