【セルフライナーノーツ】『遺伝子のゴール』編
こんにちは、諏訪原天祐です。今日はセルフライナーノーツ『遺伝子のゴール』編です。
『遺伝子のゴール』は昨年10月に発行した通算3冊目、文庫版の短編集としては2冊目の同人誌となります。「愛」をテーマにし、いろいろな形の「愛」が登場するショートショートを中心に収録しています。
1.愛され続けて、五十年
もしも、諏訪原がベストアルバムを作るならこの作品は誰が何と言おうとも収録します。人間椅子のベストアルバムにいつも「ダイナマイト」が入っているかの如く。
単純な完成度で言えば、もっといい作品はいくつかあるとは思うのですが、諏訪原が思う「ショートショート」を現時点では一番体現できている作品だと自信を持って言える作品です。
あと、諏訪原の趣味である町中華巡りがいい感じで生かされているのも高ポイントです。
2.アヴェンジャー・ババア~怒りの中国自動車道~
かつて諏訪原がTwitterにて、適当に考えた小説のタイトルを4つ並べ「この中で一番そそられるタイトルはどれ? 一番票を集めたものは実際に書きます」というアンケートを取ったところ、見事に過半数を取ってしまい、書くはめになってしまった作品。
悩みに悩んで書いた結果、いろいろな意味でとんでもないものが生み出されてしまいました。内心、こんなの世に出していいのかと思い悩みましたが、いざ出してみるとなかなかに好評で、初めての文学フリマ東京でこの作品集が文字通り飛ぶように売れたのは間違いなくこの作品(と隣で猛プッシュしてくれたN氏)のおかげです。noteにもアップしているのでもしよければ読んでみてください。
3.神の一手
この作品集で諏訪原が一番好きな作品です。この作品のおかげでこの作品集が引き締まったと言っても過言ではないほどにお気に入りです。
昨今、AI技術が急速な発展を見せており、それはこの小説界隈においても対岸の火事ではなくなってきています。今年、直木賞を受賞した『東京都同情塔』(九段理江著)が生成AIをトピックとして取り上げ、また一部生成AIを使用して執筆がなされたこともまた、話題になりました。
諏訪原自身はAI技術については特に深い見識を持っているわけではないので、ここでアカデミックにその是非についての議論をする気はないのですが、ただ一つ確信しているのは、今後どんなにAIが発達したとしても、人間の発想力、妄想力を超えることはないということです。正直根拠はありません。こんな作風でこんな小説を書いているから、「こんなのAIに書かれてたまるか!」という反骨精神がそんなように思わせているだけのかもしれません。でも、諏訪原はきっと死ぬまで人間の発想力、妄想力を信じ続け、その極北をのぞき見しようと小説を書き続けるのだろうと思います。そんなメッセージが、この小説には忍び込ませてあります。
って言っとけば、なんかかっこよさげでしょ? 作者はそこまで深く考えてないと思うよ。
4.スペース節分
「小惑星のかけらで豆まきをする」
はじめはこんなメルヘンチックなワンアイデアで書き始めた小説です。きっとまともな小説書きだったら、とても美しい純文学チックなものが出来上がるんだろうと思いますが、残念ながらこの小説は諏訪原が書くのです。
結果、読めばわかると思いますがものすごく酷い(誉め言葉ではない)小説が出来上がってしまいました。さすがにこのままでは「小惑星のかけらで豆まきをする」という膨らませ方にとっては芥川賞も夢ではないナイスアイデアがかわいそうすぎるので、もしこの記事を読んだ方でこのアイデアつかってやってもいいよという方がいれば、ぜひ小説を書いてください。そして諏訪原に読ませてください。
5.スミスがいた
大学生ころに書いた作品のリメイク。ある理由から、諏訪原の中でものすごく思い入れのある作品になっています。
というのも、実はこの作品は諏訪原の実体験がベースとなっているのです。数年前、諏訪原の人生のターニングポイントで「とても自分がしたとは思えないほど良い結果」になってしまったことがありました。自分という存在をなかなか信じることができない若き日の諏訪原は「これは俺じゃない誰かが俺の代わりにやってくれたのかもしれない」という考えに至り、それを膨らませてこういう感じに料理してみました。
6.たこわさのイデア
前作『ポプリ-potpourri-』収録の「ポストマン」路線の作品。
イデアってよく意味は分からないけど、なんとなく使ったらインテリっぽくていいかなと思って書いてみた作品になりました。結果、すごく馬鹿っぽい作品になってしまいました。作者があんまり頭よくないのばれちゃったね。
ちなみにこの作品中、あるローカルタレントの名前が出てきます。きっと前情報なく読んだ方は諏訪原の創作した人物だと思われている方もいるかもしれませんが、れっきとした実在の人物です。世界で一番派手なおじさんで、諏訪原の地元ではアクスタも売ってます。信じてください、本当なんです。
7.金魚
シュールなコメディ調の作品が多い『遺伝子のゴール』の中では正直ちょっと浮いてる印象さえ受ける作品です。でも、いろいろな雰囲気の作品がごった煮みたいになってるのが個人的な好みなのであえて収録しました。
改めて今読み返してみると、次作の『理沙がいた季節』につながるような作品だなあと思いました。こういうシュールもナンセンスもない、ほの暗い作品も好みなので、今後も書いていきたいですね。
8.カレーにズッキーニを入れた男
悪ふざけ小説。正直それしかいうことがありません。
諏訪原がなんとなくカレーにズッキーニを入れてみたところ、すごくおいしかったのでその感動に突き動かされるまま書いた作品です。構想3分、執筆1時間という超省エネ小説。
ちなみにこれ以降諏訪原がカレーにズッキーニを入れることはありませんでした。だってめんどくさいもん。
9.山勘
『遺伝子のゴール』のなかで一番短い作品です。それ以外特に特筆すべきことがありませんが、諏訪原は結構好きな作品です。
10.週末はプテラノドンに乗って
タイトルがとってもおしゃれですが、中身はいつもの諏訪原らしくシュールです。終末世界の日常モノって結構好きなんですよね。『少女終末旅行』とか。終わりゆく世界でも、ちゃんと日常が続いていくというさまを、諏訪原なりに表現できたのかなと、結構お気に入りの作品になってます。
11.独裁者最後の夢
本作品集における最大の問題作。多分きっと誰かから怒られるんだろうなあと思いながらも収録せずにはいられませんでした。昨今の世界情勢への諏訪原なりの意思表示として、ある意味しっかりと書きたいことを書き切れた作品かなと思います。正直、人によっては不快に思われる可能性もありますので、それに関しては非常に申し訳なく思っています。
Vtuberのあくまのゴート氏によるとある楽曲をリスペクトした作品となっています。もしよければ探してみてください。
12.目覚める日
大学生時代に書いた作品になります。思えばこれが本格的に小説を書きはじめた最初の作品だったかもしれません。
今となっては粗も目立ちますが、何となく根底に流れているものは一緒なんだなと読み返してしみじみしました。ちなみにこれ以降、大学の文芸部では後輩たちから「変な先輩」という称号をいただき卒業までついぞ外れることはありませんでした。
13.ラブ・フォーエバー
文フリ大阪でとある作家さんから「鶏をテーマにした作品は書かれてないんですか?」と尋ねられて、言われてみれば書いたことねえなと思って書いた作品になります。
「愛」をテーマにした作品集なので、きっちり最後をこの作品に飾ってもらいました。諏訪原は「愛=偏愛」と考えている節があり、作品集全体に何となくそんな雰囲気が漂っているのですが、この作品には特にその色が濃く出ているので、好きです。ただ、オチがあまりにもひねりがなさ過ぎて、それだけが心残りでもあります。
EX.まとめ
「文学フリマ東京に出る! ならばそれにふさわしい作品集を作らなくてはいけない!」というところから作品集づくりがスタートしました。制作自体は順調で9月の文フリ大阪の前にはおおむね出来上がっていたのですが、そこからが難産となりました。
文フリ大阪に出て、自分がいかにまだまだかを実感させられる結果となり、それによってそれまでの『遺伝子のゴール』の収録作品の出来に全く納得できなくなり、コンセプトそのものから見直すことになりました。その時点では10作品が出来上がっておりましたが、そのうち6作品を没にし、新たに6作品を文フリ大阪の前後2週間で書き上げ、また、過去に書いた小説を3つ手直して収録し、新生『遺伝子のゴール』が無事完成しました。
そんな経過をたどった作品集なので、文学フリマ東京で自分の予想をはるかに上回る売り上げを出し、完売という望外の結果となったときには、喜びもひとしおでした。
ただ、これが最高傑作かと言われればそうではなく、今月発行する『理沙がいた季節』はこれを超えるものになったと自負しており、またそんな風な創作ができていることも、とても嬉しいです。
それではまたお会いしましょう!
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