【小説】魔法少女マジカルフレア!第八十九話「史上最強の敵、ドジョウ伯爵!」
(この小説は、カクヨムにて開催された崇期様主催の企画「笑いのヒトキワ荘・ドジョウのおでん杯」に応募した作品です)
あたしの名前は炎田萌果、どこにでもいるフツーの中学三年生! だったんだけど、ある日突然妖精のみーたんが現れて「魔法少女になって地球の平和を守ってほしい」ってお願いしてきたの! おじいちゃんの遺した借金の金利を減らすことを条件に魔法少女になったあたしは、今日も地球の平和を守るため、このマジカル自動小銃(SKSカービン)片手に悪の組織ワルワル団と戦っています!
(ここでいい感じのオープニング曲が流れる)
第八十九話 『史上最強の敵、ドジョウ伯爵!』
「ねえ、萌果! 今日放課後クレープ食べに行こうよ!」
クラスのみんなが思い思いの時間を過ごす昼休み、親友で魔法少女仲間の早紀ちゃんが元気に話しかけてきます。あたしはマジカル自動小銃を磨く手を止めて早紀ちゃんの声がする方をふり返りました。
「いいね。あたしも久々にクレープ食べたいなあって思ってたところだったよ」
「じゃあ決まりね! ちょうど怪人土地ころがしベアーを倒したときの報酬を振り込んでもらったから今日はおごってあげるよ!」
やっぱり持つべきものは友です。早紀ちゃんはとっても聡い子なので、ワルワル団を倒したときの報酬はスイス銀行に米国ドルで振り込まれるようになっています。あたしはワルワル団を倒すたびにおじいちゃんの借金の金利が0.1パーセントずつ下がるようにしてしまっているので、きちんと現ナマで報酬がもらえる早紀ちゃんのことがときどき羨ましくなります。
「じゃあ、そろそろ授業始まるから教室帰るね! また放課後!」
早紀ちゃんはそう言って自分のクラスへ帰っていきました。あたしもピカピカになったマジカル自動小銃をマジカルライフルケースにしまい、五時間目の支度をはじめました。
(DXマジカル自動小銃(変身ブレスレット付き)のCMが流れる)
放課後――。
「ねえ、なんか地面がぬるぬるしない?」
確かに言われてみると、何の変哲の無い駅前の風景が妙にテカっているように思えます。あ、目の前でサラリーマンがこけた。
「なんだろ、ちょっとぬるっとした雨でも降ったのかな」
「そんなことあるかな……」
そんなことを言いながら、ヌルヌルの駅前を二人でそろそろと歩きます。すると、どこからか野太い高笑いが聞こえてきました。
「萌果! あそこ!」
早紀ちゃんが指をさした方向には、ドジョウの怪人が腰に手を当て仁王立ちで立っていました。その横では下っ端たちがせっせと青いバケツで透明な液体を地面に撒いています。
「はっはっは! オーラで分かるぞ、お前たちは魔法少女だな? 儂の名前はドジョウ伯爵! ワルワル団八王子支部長である! ……さすがは魔法少女達だな、この儂の居場所をこんなにもすぐに突き止めるとは! 正義の心とはかくも少女たちを可憐に猛々しくさせるものなのか!」
「いや、わたしたちはクレープを食べに来ただけなんだけど……」
困った顔の早紀ちゃんの言葉もお構いなしに、ドジョウ伯爵は上機嫌な様子です。
「はっはっは! そう謙遜するでない! 見ての通り儂は親子三代ローションフェチなのである! 儂はこのままこの世界を儂お手製のローションでヌメヌメのテッカテカにして、ローションフェチのローションフェチによるローションフェチのための楽園を作り上げて見せるのだ! 思えば儂は信州の片田舎の出身であり、父は木こり母は投資信託詐欺を営み――」
どうやら話が通じない系の怪人っぽいです。こういう怪人はさっさとマジカル自動小銃でハチの巣にして金利を0.1パーセント下げるのが一番なのです。隣の早紀ちゃんもどうやら同じ気持ちのようです。右腕の変身ブレスレットを構え、いつもの呪文を唱えます。
「ミラミラミラクル、フレアチェーーーーーーンジ!」
「ミラミラミラクル、ウェーブチェーーーーーーンジ!」
(変身シーン、約三十秒)
「ムムム! その赤色のドレスと熨斗目花色のドレスはまさしくマジカルフレアにマジカルウェ―ブではないか! ちょうどいい、最強クラスの魔法少女を一気に二人も始末ができるいい機会になるぞ! 行け、ザコ丸たち! 魔法少女にローションをぶっかけてマニアックなAVみたいにしてやるのだ!」
ドジョウ伯爵たちがそう言うと、青いバケツを持った下っ端たちが一斉にあたしたちめがけて襲い掛かってきます。あたしはマジカル自動小銃を、マジカルウェーブはマジカル鎖鎌をそれぞれ構えて迎え撃ちます。
「ギャーーーーーーー!」
「グワーーーーーーーーーッ!」
「ヌギーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
あっという間に死屍累々。下っ端たちの山がうず高く積みあがっていきます。
「おお、うわさに聞いていたがこれほどまでに強いとは……」
「さあ、後はアンタだけよドジョウ伯爵! 大人しく一万ドルになりなさい!」
下っ端たちはみんないなくなり、目の前の敵はドジョウ伯爵ただ一人となりました。しかし、ドジョウ伯爵は不気味なほどに落ち着きはらっていました。
「はっはっは! 猪突猛進、勇往邁進なのは若者の特権だが、どうも力量というものにはまだ気づけないお年頃のようだな」
「何を言って……!」
あたしはこんなことさっさと終わらせて借金を少しでも減らしたいのです。マジカル自動小銃に魔法のパワーを込め、思い切り引き金を引きました。マジカルエネルギーをまとった鉛玉がドジョウ伯爵をつらぬき……ません。
「え?」
「はっはっは! ようやっと気づいたようだな。そう! 儂はローションフェチの中のローションフェチ! 言うなればキングオブローションフェチ! 全身にまとったローションによってあらゆる攻撃を受け流すことができるのだ!」
「そ、そんな……」
「では儂の番だな。くらえ! ローションシャワー!」
そう言うと、ドジョウ伯爵は両方の手のひらから勢いよくローションを発射しました。避ける間もなくあたしたちはローションまみれになってしましました。
「くっ……、ぬるぬるして攻撃もできない……!」「はっはっは! いつ見てもローションとはいいものだ! 大体人間はヌルヌルが足りなさすぎなのだ! だから肌と肌が触れ合っても快感が生まれず、争いが起こり台地が荒れ果ててしまうのだ! 人類が皆ヌルヌルになって触れ合うたびに快感を得るようになれば争いなど起こらないのだ! 儂は別に変態だからローションまみれにするのではない! 世界平和のためにローションまみれにするのだ!」
ドジョウ伯爵はそう言いながらじりじりとあたしたちに近づいてきます。何とか逃げようと身をよじっても、ぬるぬるして体が思うように動きません。
「さあ、覚悟しろ魔法少女よ!」
ドジョウ男爵の手があたしたちへ伸びてきて――。
「マジカルテレポート!」
光があたしたちを包みこみ、気が付くと早紀ちゃんの部屋にワープしていました。いつの間にか変身も解けています。隣では早紀ちゃんが肩で息をしています。
「早紀ちゃん、あれはいったいなに?」
「あれはね、マジカルテレポートっていって、かなり体力を使うんだけどその代わりに自分の部屋に一瞬でワープできる魔法なの」
「えっ、そんな魔法使えるんだ」
「月額3万円のプレミアオプションに加入したら誰でも使えるって、みーたんが言ってたよ」
そう言って早紀ちゃんは照れ臭そうに笑いました。やっぱり現ナマ勢はすごいなあ。
「そんなことより! あのドジョウ伯爵、何とかしないとあっという間に八王子がローションの町になっちゃうよ」
早紀ちゃんの顔が近いです。けどちょっといい匂いがします。
「でも、あたしのマジカル自動小銃が効かないから攻撃の手段がないよ……」
「確かに、攻撃が一切通用しないみたいだからわたしのマジカル鎖鎌で何とかできそうな相手でもないしね」
「せめて何か弱点でもあればなあ……」
「それなら心配ないポヨ」
いつからいたのか、みーたんが早紀ちゃんの肩に乗ってそう言いました。
「えっ、本当なの!」
「本当ポヨよ。ボクの調べによるとあのドジョウ伯爵はおでんがものすごく好きなんだポヨ!」
「……、それだけ?」
「うん、そうポヨよ!」
みーたんは誇らしげに胸を張っています。あたしは無性に腹が立ってきました。
「この銭ゲバ妖精! 弱点だって言ってるのに何で好きな食べ物の情報を持ってくるの!」
「そうは言ったってこれしか情報がなかったんだからしょうがないポヨよ! そこまで言うなら情報提供料今なら一万円にまけてあげるから何とかしてほしいポヨ」
「こんのクソ妖精が……!」
「いや、待って萌果。この情報使えるかもしれない」
あたしの横で難しい顔をしていた早紀ちゃんが唐突にそう呟きました。
「えっ、どうやって?」
「どうするんポヨよ?」
お前はちょっと黙っててほしい。
「ドジョウ伯爵はおでんが好きなんでしょ。だからまずはとっても大きなおでんを用意してそこにドジョウ伯爵を誘い込むの。それで大きいおでんをドジョウ伯爵が覗き込んだところを後ろから突き落としておでんの鍋の中に突き落とす! あとはぐつぐつ煮込んでおでんにしてみんなで食べてやるの! 名づけてドジョウのおでん大作戦!」
やっぱり早紀ちゃんはとっても聡い子です。あたしには全く考え付きませんでした。隣でみーたんもこくこく頷いています。なんかムカつくな。「そうと決まれば早速準備するポヨ! 大きいおでん鍋はこっちで用意するから二人はドジョウ伯爵が思わずのぞき込むようなおでんの具を買ってきてほしいポヨ」
「わかった!」
「よし、みんなで力を合わせてドジョウ伯爵を倒すぞ!」
「えいえいおー!」
(ここでいい感じのエンディング曲が流れる)
次回予告!
「えっ、おでんにチョコ入れるの!?」
「いりこだしを買ってきたのはどこのどいつだ!」
「萌果、みそだれは関東の人には馴染みがないよ」
次回! 第九十話『ドジョウ、溺死!』
お楽しみに!
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