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イベントレポート「グッドネイバーズトーク」 ゲスト:西由紀子さん(野草茶カフェ「kamochaya」店主)

はじめに

南伊豆には、いろんな人がいる。

「10人10色」という言葉があるけれど、
ここで暮らす人たちは、
なんだか「1人10色」(いろんな色の掛け合わせで生きている)、な気がします。

「(一周回って)あの人は・・・一体何をしている人だろう?!」

「グッドネイバーズトーク」は、南伊豆のご近所(ネイバー)さんをお招きし、
そのかたの活動や人となりを伺っていくトークイベントです。

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2024年3月18日に開催した第一回のゲストは「入江由紀子さん」!

南伊豆町・上賀茂にある築100年以上の古民家を改装し、
クロモジや月桃などの野草茶を楽しめる素敵なカフェkamochayaの店主。
愛称は「ゆっこさん」。

開放的な広いテラスでは、ヨガレッスンや夜の音楽祭などイベントも多数開催されています。

ゆっこさんが南伊豆でいまの暮らしをつくるに至ったお話や、
お店のこと、好きな本などを伺いました。

聞き手は、南伊豆町・下賀茂でゲストハウス「ローカル×ローカル」を運営しつつ、
漫画家・イラストレーターとしても活動する伊集院一徹さんです。

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デザイナーからバーの経営、ハワイとの出会い



 東京生まれ、東京育ちのゆっこさん。大学卒業後、デザイン会社に就職し、シルクスクリーンのデザインやアパレル店舗で接客の仕事などをしていましたが、途中からコンピュータがデザインの現場にも導入され、仕事の環境が変わっていったそう。会社を退職し、44歳のころに一念発起して、東京・吉祥寺で飲食店を始めます。

 最初に始めたお店はお酒がメインの、ジャズが流れるバーだったそうです。ボトルキープしてくれる常連さんも多く、なかなか繁盛していたそう。しかし、50歳のとき、初めての一人旅で訪れたハワイで転機が訪れます。出会った人々や風景に夢中になり、さらに一軒の食堂に心を動かされます。

ゆっこさん:
「すごく素敵なお店があって 。ハイスクール帰りの男の子がハンバーガー食べに来たり、暇なおじいちゃんはそこでビール飲んだりとか。その食堂はCCジョーンズっていう、もう今はないお店ですけど、60代ぐらいのママさんが1人でやっていて、それがすごく素敵で。そこはみんなのコミュニケーションの場所で、食べて、笑って、聞いて。 素敵!と思っちゃって。ウクレレもやってたんで、こんなのを作りたいと思って

(自分のバーの)暗い電気を変えて、ハワイアンのカフェに。 常連のおじさんたちも最初ブーブー言ってたんだけど、でもやっぱりなんか楽しいみたい。若い人とかフラの人とか踊ったりするからなんか楽しくなって。やっとなんか自分がやりたいお店ができたなって感じで。」

「(最初のお店では)本当、乾き物とかピザぐらいしかだしてなくて、もっとご飯出してあげたいなとか。疲れた女子とかが、家に帰っていく途中に寄りたいお店はなんだろうと。お酒飲めないし、喫茶店もいいんだけど、ちょっと誰かと話できて、ちょっと甘いものもあって、コーヒーも飲めて、ご飯も食べれるとこ。で、そういうメニューにしちゃった。 ロコモコとか作っちゃったし。そしたら、ほんとに女の子のお客さんがすごく増えて。やっぱそういう場所を欲しがってたんだなって」


 お話だけでも素敵なお店だったことが伝わってきます。吉祥寺の繁華街という人気の場所で、最初のバーだった期間も合わせると、なんと20年間お店を続けたそう。しかし、そんなお店を畳むことを決意したのは突然だったといいます。

ハワイアンカフェの閉店、そして南伊豆へ

ゆっこさん:
「2018年に、ある日突然、カウンターのお客さんが みんな携帯を持ってて。カウンターって、スタッフと私とお客さんの舞台なんですよね。会話とかすごい楽しくて、こっちとこっちが繋がったりとか、面白い話もバンバン出るんだけど、だんだんね、みんなが携帯をこうやって見てるわけ。そしたら1人、昔からいたお客さんが怒っちゃって。カウンターっていうのはさ、携帯見る場所じゃないぞ、カウンターは特等席なんだからな、とか。でも、それは通じないわけね。そういうのが意外とあって、ちょっと時代が変わったんだな、って。で、その年に辞めるって決めたんです」 

「お客さんはずっと私が70になっても80になってもやってくれると思ってるから、みんなブーブー言ってたけど。で、もうその時にはもうここ(kamochayaになる物件)を買ってたのね。だから、(今までのお店は)なくなるけど、南伊豆においでよ、って


 伊豆にはもともとキャンプなどでよく訪れていて、大好きな場所だったそうです。白い砂浜や綺麗な海を、「今考えてみたらハワイ島にもすごく似ているね」とおっしゃるゆっこさん。
 東京育ちのゆっこさんは、小さい頃、親戚の住む田舎で過ごした時間が楽しくて楽しくて、「子供や孫たちがやってきて、みんなで餅つきしたり、みんなでご飯食べたり」できる田舎をつくるのが夢だったそうです。当時、それまで持っていたマンションが売れるなど、さまざまなタイミングが重なったときに、現在kamochayaになった物件と出会ったそうです。

ゆっこさん:
「(物件を) 本当に遠目から見てたのね。もう屋根はグズグズしてて、なんかね、おじいさんに見えたのね。ちょっとこう、死にかけてるこのおじいさんを、蘇らせたいって思っちゃって。これだと思っちゃった


 今の綺麗なkamochayaからはなかなか想像できないような、だいぶ大変な状態だった物件だったようですが、買うことを決め、改修を始めます。イベント会場ではその当時を記録したアルバムをお持ちいただき、改修に関わってくれたいろんな方のエピソードと共に見せていただきました。

 実はこの日の参加者の一人はkamochayaのご隣人のTさん。 ゆっこさんが改修を始めていた家のすぐ隣にTさんが越ししてこられて、片付けなどが大変そうな状況をみて、ゆっこさんが「お雑煮食べに来ない?」と声をかけたのがきっかけでのご縁だそうです。

野草茶カフェ「kamochaya」を開く

 物件を購入した当時は、その場所でお店をやることは考えていなかったそうです。あくまでお子さんやご友人などが集まれる場所として改修を進め、素敵な住居に生まれ変わりました。その場所を、改めてお店としてひらくことを考えたのは、2022年1月、パートナーさんの突然の他界がきっかけでした。

ゆっこさん:
「その時はもう、もちろん考えないけど、心配で友達とかが泊まりに来てくれたりとか、いろんな人、地域の人たちが来てくれたりしてて、やっぱり、みんなが来てくれるところが、私は好きなんだなって思って

「やっぱりお店として門を開いてると来てくれる。個人のお宅にはなかなか入ってこれないしね、知り合いじゃなければ。 だから、そういうの、面白いなと思いましたね。で、(お店を開いてからの)この1年間ぐらい、面白い出会いはすごくあって」


 もともと野草茶を作ってお知り合いに配ったりしていたこともあり、野草茶カフェ「kamochaya」をオープンします。

 マタタビ茶や月桃茶などをたっぷりとしたカップでいただきながら、店内では日替わり具材のおやきやぜんざい、最近は毎週水曜日に「しゅうまい定食」などを楽しめます。ヨガ教室や、月に一度の「夜カモ」(バル形式で食事が楽しめたり、音楽ライブなどが行われています)など、まさに人が集まり、コミュニケーションの生まれる場となっています。


月に一度の「夜カモ」の光景

南伊豆でのくらし

 南伊豆にはいろんな顔(海、山、川、田園など)があって面白い、とゆっこさん。この日のイベントが行われている下賀茂商店街も、コンパクトながら、裏手側には川沿いの気持ちいのいい遊歩道があり、この数年でベトナム料理店や洋食レストラン、中華料理店などもできてきて、「ほんとに嬉しくなっちゃう」とおっしゃいます。
 反対に、もっとこういうのがあったらより良いのではと思うものは?と質問させてもらいました。

ゆっこさん:
必要なお店じゃないものがあるといい。やっぱりマーケットとか薬屋さんとかは必要じゃないですか。 ここ(本屋)とかは必要なわけではないよね。でもこう、雑貨とか本とか花とか、カフェとか、生活していく上で必ず必要なものじゃないお店がもうちょっとあったらいいな。 そうすると、わざわざ散歩しながら来て、いろんなとこに寄って、顔見て帰る、みたいなね」

「あと、南伊豆にはアーティストがすごく多い。うちとコラボして月桃の石鹸を作ってるKちゃんがいたり。いろんな人がすごいことやってるんだけど、見えないの。人と繋がると、そんなことやってるの?!ってわかるけど、見えない人がまだいっぱいいると思うから、そういう人を繋げる、今日のイベントみたいなことがあるといいね


 月桃石鹸の話が出ましたが、実はいまゆっこさん、新しいプロジェクトとして月桃畑を南伊豆に作って、育てています。聞けば聞くほど新しいアイデアが出てきて、パワフルなゆっこさんですが、そのパワーの原動力はどこからきているんでしょうか。


ゆっこさん:
「原動力なんかないですよ。へたれてる時はへたれてます。でも、なんかきっと、なんか楽しいとか、目標に向かっていく途中が、なんか楽しいじゃない。みんなでご飯食べたりとか、そういうところかな」

「私、白内障の手術して、今、運転できないんです。でも病院が西伊豆まで行かなきゃいけなくて。10何人いるLINEグループに、すいません、行ける人いませんか、その代わりにランチ一緒に、みたいに投げたら、みんな手挙げてくれて、全部の日程埋まって。行ってみると、ここ行ったことないから面白いって、一緒にご飯も食べて、すごい楽しい。やっぱりいろんな人たちと繋がって、でも介抱されてるだけじゃなくて、一緒に楽しもうよって言うと、結構楽しんでやってくれるから、そういうのも大事だな、と思ってね」

おすすめの本紹介

 最後に、ゆっこさんにおすすめの本をご紹介いただきました。

 一冊目は、『ベニシアの京都 里山日記 ―大原で出逢った宝物たち』(世界文化社、2009年)はじめ、ベニシア・スタンリー・スミスさんの本。

ゆっこさん:
「これは移住するのにすごくきっかけになった。番組でもやってて、ずっと見てて。憧れですね。本当にこんなふうにできたら素敵って 思って。丁寧な生き方っていうかね。ベニシアさんの番組を見ながら、本を読みながら、こんな風にしたいなとかね。子どもの頃から本読むの嫌いで、漫画とかアニメとか映画は大好きなんだけど、ちょっと本が苦手だったんだけど、その中ですごくやっぱりワクワクしましたね」


二冊目は、一万年の旅路: ネイティブ・アメリカンの口承史(翔泳社、1998年)。

ゆっこさん:
「これは友達に勧められて。6、7年ぐらい前ですかね。その時、私なんかすごい縄文にハマってて、今もハマってんですけど。でも、この分厚い本を初めて読んだんだけど、もうね、映像が出てきちゃって、 最初の人間の集団が、ベーリング海峡を渡って、アメリカにすみかを求めて移動していくのが、もう映画みたいに見えてきて、 最初の人間ってこういう感じだったんだと思って。最初に毒食べてみんな死んじゃったりとか、ほんとにそれがこう書いてあって。頭のいい人がちゃんとその種を覚えて、いろんなとこに定住していくっていう、私たちの先祖がこういう感じだったんだっていうのが、本当にワクワクしながら読んだ本です 」


イベントを終えて

 こちらのレポートは全体の抜粋ですが、他にも書ききれないエピソードがありすぎるほど、熱量のあるトークイベントでした。参加者のみなさん同士で感想をシェアし振り返る時間や、質疑応答なども含め、7時過ぎにイベントは一旦終了となりました。お話が盛り上がって予定を少しだけオーバーしつつ、でもまだまだゆっこさんのお話が聞きたいかたがたがイベント終了後も残って質問をしたり、その後ご飯に行ったりという光景がありました。

 改めて、今回ファシリテーターを務めてくださった伊集院さん、イベントを一緒に盛り上げてくださった参加者のみなさま、そして第一回目のゲストとして登壇いただいたゆっこさん、本当にありがとうございました!


ゆっこさんからのお知らせです!

 ゆっこさんが現在進めている新しいプロジェクトでは、抗菌効果などがあると言われる月桃茶や、肌にやさしい石鹸を作るため、南伊豆町・湊エリアに月桃畑を育てています。
 こちらのプロジェクトに興味がある、参加したい!というかた、ぜひ「kamochaya」までご連絡ください!さまざまな年齢層の人たちが畑を介してつながっているようです。

野草茶カフェ「kamochaya」
Instagram:https://www.instagram.com/kamochaya/

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