Netflix映画 タンタンの冒険 ユニコーン号の秘密
Netflixでスティーブン・スピルバーグの名前を検索すると、出てくるのは『シンドラーのリスト』とこの『タンタンの冒険』の2つのみ。私は数年間ほとんど映画を見ていないので、スピルバーグ映画からも遠ざかり気味。最後に見たのは『ミュンヘン』と『インディ・ジョーンズ4』。
うーん……『タンタン』か……。『戦火の馬』とか『リンカーン』が見たかったのだが……(『インディ・ジョーンズ4』までの作品はほぼ全て見ている)。
Netflixがスピルバーグ映画をもっと取り上げてくれるのを待とう。
さて、久し振りに見たスピルバーグ映画は『タンタン』となった。「チンチン」ではなく、『タンタン』(音だけを聞くと、どうしても「チンチン」)。デジタル技術で制作されたパフォーマンスキャプチャーアニメーションだ。簡単なセットが組まれたステージ上で俳優が演技し、その動きをトレースしてアニメが作られている。その上にデジタルスタッフが世界観を作り、最終的な画面になる。
共同製作に名を連ねているのは、ピーター・ジャクソン監督だ。「パフォーマンスキャプチャーで制作したほうがいい」と提案したのがピーター・ジャクソン監督で、技術的な支援や、制作会社WETAの仲立ちをし、俳優アンディ・サーキスを紹介したようだ(タンタン役のジェイミー・ベルもPJ監督の『キングコング』に出演している)。
(Wikipediaを見ると、最初はピーター・ジャクソンとアンディ・サーキスで演じて、それをスピルバーグ監督に見せていたようだ。ピーター・ジャクソン監督の演技は『ロード・オブ・ザ・リング』で見たが、なかなかうまかったりする)
いまいち関係ない話だが、ハドック船長の顔が時々ピーター・ジャクソン監督の顔に見えてしまうような気がして……。完全なる気のせいである。
映画のビジュアル面だが、照明や光の感じがフォトリアル。しかしキャラクターのシルエットが漫画調。頭が大きかったり、鼻が大きかったりとユーモラス。風景の描き方にしても、石畳や木造建築の木目とか、実写では省略されがちなディテールがくっきり浮かび上がる。妙に箱庭的というか、ミニチュア的な感じというか……恐ろしくリアルに動くクレイアニメみたいな感触で、なんだか可愛らしいなぁとすぐに気に入ってしまう(こうしたディテールの見え方をコントロールできることがアニメーションの特権だ)。
映画は次々とアクションが展開していく。通常の映画だと、アクションとアクションの間には対話――“物語”が差し挟まれるわけだが、『タンタン』だとこの部分が最小。ほとんどアクションからアクションへと話が繋がっていく、という感じ。その息もつかせぬシーンの繋げ方。
シーンの繋げ方だが、いつもちょっと変な一捻りを入れてくる。スピルバーグは時々、前のシーンを意識したジョーク的な繋がりを作ることがあるのだが(『ロストワールド』とかの)、『タンタン』はそれを全編でやってしまっている。
そのアクションの描き方だが、現実ではあり得ないような描き方が一杯。初手としては、成人男性が頭部への一発で気絶したりするシーン……昔の映画ではありがちだが、ああいった“漫画的”な見せ方が、アニメだからこそハマって見える。
中盤の、船のシーンを脱した後の飛行機のシーン……何度も極端な下降上昇を繰り返し、酒が泡となって飛行機の中を漂い……。その後のシーンもそれ以上にコミカルなシーンが出てくるのだが、そういった実写ではあり得ないようなおかしなシーンが楽しい。ああいったあり得ないようなシーンを、あり得るものとして描いてしまう。実写で描くことはできるが、ただのコメディとなってしまうところを、アニメだからこそリアリティの度合いを下げて、受容可能なひと場面にしてしまっている。
続いてモロッコでのながーい1カットチェイスシーン。これまた実写ではどうやっても描くことができない、恐ろしく長く、しかも大がかりな1カットシークエンスだ。バイク、戦車、ハヤブサという道具立てでひたすら坂道を転げ落ちていく。あそこまでキャラクターを追い詰めて、危険な瞬間の連続を描き、繋げていけるのも、こういったアニメの技術があってこそ。
さらに続くシーンでは、巨大クレーンを使った“フェンシング”。よくもまあ、あんなシーンを思い付くものだと感心。シーンとしても面白いし、大がかりなものが動くダイナミズム、さらにクライマックスとしてのワクワク感もきちんとある。
ただ、引っ掛かったのは「タンタンって誰?」。映画が始まって、すぐにノミの市のシーンが始まり、問題の帆船模型が出てきて、事件に巻き込まれてしまう……。
という展開だが、「タンタンとは何者なのか?」という説明、タンタンの経歴やパーソナリティがわかる場面がほぼない。あるといえばあるのだが……オープニング映像や途中に挿入される新聞記事……そこは本当にさらっと流してしまっている。これまでいろいろやってきたんだな……というのはわかるが、ピンとこない。
展開の早さはいいのだが、しばらくタンタンの人物像が掴めず、戸惑ってしまった。
というのも、何の予備知識のないまま見始めたから、タンタンがかなり奇妙な人物に感じられたんだ。まず、タンタンには親も友人らしき人物も出てこず、いつも犬を連れていて、犬としか対話しない。図書館に犬を連れて行って「わかったぞ!」と話しかける姿を見て、「こいつ……大丈夫か?」と思ってしまった。もちろん、ガールフレンド的な人物などは出てこない。
タンタンが住んでいる部屋は出てくるが、どんな家に住んでいて、その家がどういった場所か、俯瞰で示されることもなく。タンタンという人物像を掴み損ねてしまった。話がしばらく進めば、なんとなくわかってくるところだが。
『タンタン』の興行は世界的に成功したようだ。こうしたパフォーマンスキャプチャー映画は、ロバート・ゼメキスやゴア・バービンスキーが挑戦しているが、残念ながら興行的には成功していない。私はロバート・ゼメキス監督の『ベオウルフ』はかなり好きなんだが……。
パフォーマンスキャプチャーアニメはなかなか面白いものだから、もっと次々にフォロワーが現れて、継承されていってほしいものだ。
5月3日