映画感想 カーズ2
『カーズ2』はずいぶん前にテレビ放送していたものを録画していて、そのまま放置していた。漫画制作が終われば少しお休みができるからその間に見ようと思っていたものの、その休日がすっとび、なかなか見られない状況が続いていた。
で、ようやく2時間分の空き時間ができた……というか過労でもう机に座っていられないくらいに消耗したので、残り作業を中断して、録りっぱなしになっているこの作品を見よう……というのが『カーズ2』視聴までの経緯だ。
『カーズ2』
前作『カーズ』がルート66を中心舞台にして、その周辺世界についてはあまり描かれておらず、程よく閉じられた世界観だった。動物や虫までも車として描かれる擬車化という不思議な世界観だったが、閉じられた世界だからこそうまく成立していた。
『カーズ2』では思い切って世界観が広がる。車以外の“種”……船や飛行機も人格を持って喋りはじめている。人間だけがその世界から消えてしまっている。舞台もアメリカ・ルート66から日本、イタリア、イギリスと次々に展開していき、世界観の広さを距離的なものでも感じられる。
その世界観の広がり、ただ単に広がるだけではなく、外部世界の“文化”までもきちんと作られている。そこは凄い。よく練り込まれているなぁと感心する。
ただ、ストーリーだ。なぜここにスパイもの要素を混ぜ込んでしまったのだろう?
スパイ描写もかなり凄い。手足のない車が、いかにしてスパイものらしい活劇を繰り広げられるのか? 一台の車が次々とガジェットを繰り出しピンチを切り抜けるシーンはかなり見応えもあるし、やっぱりアイデアの豊富さに驚く。
しかし、『カーズ』はレースカーが主役の物語だ。スパイものをここに混ぜ込むのは正しいような気がしない。
主役はライトニング・マックイーンではなく、相棒メーターだ。メーターが何かの間違いでスパイだと思われて、謎の組織の陰謀を暴いていく。当事者達が様々勘違いを繰り広げて、メーターがスパイ仲間だと思われて、メーター自身も事情がよくわかってないまま、組織の謎に近付いていく……。
コメディ映画でならたまに見られるタイプのプロットかも知れない。コミカルな映画だが、『カーズ』はコメディ映画ではない。だから、どうしてもこのプロットに納得がいかない。
かなり無茶なシナリオだが、それでもちゃんと起承転結しっかりしていて、娯楽作として楽しめるように作られている。そこもやっぱり凄い。必ず平均点以上採る優等生ピクサーらしい作品だ。
だが『カーズ』という作品にスパイものを混ぜ込むのは正しいとは思えない。
肝心のレースシーンは随分おざなりに扱われてしまったし、マックイーンの新たなライバルであるフランチェスコもほとんど掘り下げられないままに終わってしまった。メーターが行方不明になって不安になるマックイーンだが、あまりにもメンタル弱すぎ。アスリートらしくない。
それに、繰り返すようだが『カーズ』はレースカーが主役の物語だ。『カーズ』1作目はシンプルなストーリーながらレースカーの精神性と成長がしっかり描かれた作品だった。その2作目としてはあまりにも別作品すぎやしないか。
相棒メーターの物語、メーターの精神的成長の物語だが、これは『カーズ2』というか、スピンオフ的な内容だ。正直なところ、メーターの成長物語はあまり興味がなかった。
舞台は日本、イタリア、イギリスと展開していくが、個々のディテールが弱い。これならPS4くらいでもがんばれば描写できそうだ。舞台を広げすぎたせいで、作り込みが分散してしまったような印象を受ける。コミカルな描写だが、ディテールはがっつりしっかり作り込まれているのが『カーズ』だったが、今回はそこから受けられる印象は弱くなってしまった。
と引っ掛かるところが一杯あるのだが、エンターテインメント作品としてはきちっと楽しめるように作られているのがこの作品。優等生ピクサーらしい。しかし今回はただの「優等生の作品」で終わってしまっている。
6月17日
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