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あけましておめでサーテレビディレクター

今年も実家で年越しを迎えた。

数年前までは、親族が10人近く集い
キャンプ用のテーブルまで引っ張り出していたが、
祖父母たちがひとりまたひとりと亡くなり
兄夫婦がごそっと海外赴任へ旅立ったので
今年は両親と私の3人で年越しを迎えた。


私は実家の年越しが好きだ。

大晦日は、母とおせちを作る。
かんぴょうが短いと文句を言いながら昆布締めを結ぶ。
テレビを見ながら田作りの煮干しを煎る。
栗きんとんの隠し味はオレンジジュース。
数の子の皮と格闘する。ひだに絡まってむかつく。つまみ食いは3本まで。
人間の睡眠時間以上に煮込む黒豆は、ガス代泥棒だ。
伊達巻は(ほんまにこんなに砂糖入れてええの・・・?)といつもビビってしまうが、食べてみると、(もっと甘いほうがよかったなぁ)と毎年後悔する。

その間、父が窓を拭き、やたら広いベランダを掃除する。
今年はどこからか2人がけのベンチを貰って帰ってきて、ベランダに設置していた。
「俺はこのベンチで夕日を眺めながらワインを飲むんや!」とかなんとか。結果、ベランダは掃除前より狭くなった。窓もまた汚れた。意味がわからない。



年越し蕎麦を食べたら、猫を抱いてコタツでだらだらする。
めちゃくちゃ眠いが、0時の瞬間には一応全員正座をして
「今年もよろしくお願いします」とお辞儀をする。


新年の朝は、食卓に集い、お屠蘇の回し飲みから始まる。
小さい盃から順番に。歳の若いものから順番に。
うちの屠蘇器は会津塗だ。銚子の口元は漆が溜め塗りされていて、飴色が美しい。

お重に詰めたおせちをテーブルに広げていく。
好物が多い一の重をさりげなく自分の近くに置く。
1人ずつ名入りの祝い箸と、取り皿の九谷焼が配られる。
綺麗だし美味しいし、おせちは最高。


雑煮が登場するのは締めだ。

我が家のお雑煮は、母方の郷里・新潟風。
餅の上に大根、にんじん、こんにゃく、鶏肉などあらゆるものが盛られ、頂上にはイクラが君臨する。
新潟の海の幸と山の幸が、椀の中にわさわさ勢揃い。
結婚当初、父はそれを見て「なんだこの田舎くさい雑煮は」とどんびきしたらしい。

父が育った大阪の雑煮は、関西の出汁文化から生まれた、すまし汁。
餅の上に出汁を注ぎ、三つ葉と柚子を散らすだけ。超シンプル。
主婦たちの「渾身のお出汁」を堪能するための椀だ。

父は、その関西風雑煮の味を彼の母、つまり私の祖母から学んだ。
しかし、その祖母は、関西人ではない。祖母は愛媛の出身である。
愛媛に生まれ、広島・呉の海軍だった祖父に見染められて結婚。
戦後、富山・高岡で工場を立ち上げるが、事業に失敗して大阪にやってきた。

そこで祖母は、大阪人に「田舎者」と散々馬鹿にされたらしい。
あまりに悔しくて、関西風の出汁の味を必死に学んだのだとか。


愛媛出身の祖母と、広島出身の祖父が暮らした、富山。
富山生まれの父と、新潟生まれの母が結婚した、愛知。
両親は、愛知、大阪、東京と転勤を繰り返した。

ご先祖たちは、土地を変えながら必死に生きてきたのだ。
その結果、2022年の私は東京で関西弁を話しながら新潟風の雑煮を啜っている。


手料理の味は、ときに誰かの人生の名残を纏う。
だから私は人が作ったご飯が大好きだ。

来年は、伊達巻を作るとき躊躇せず砂糖を入れよう。

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