湯けむり温泉殺人事件 中編4
「それで……今こんなことを聞くのは酷だと思いますが、昨日何をされていたのか教えていただけないでしょうか」
ああ、やはり私も疑われるのか。疑われてないとしても、重要参考人として色々ときかれるのだろう。そうしなければ事件は解決しないだろうし、仕方のないことではあるのだろうけど。
「昨日は、まず朝は新幹線に乗っていました。熱海に着いたあとは、二人でぶらぶらと散歩をして、気になった所を巡っていました。それから――」
昨日と今日何をしていたかを大まかに話したあと、詳細な情報を求められた。ローションにサリンが入っていたので、何故持っているのか、どういうときに使っているのか等ローションに関する質問を沢山された。常にローションを持っていて、1日に何度か塗っていると話すと警察官は少し軽蔑した目になった。確かに一般の人には理解し難いだろうけれど、それが彼、ゆっきさんという人なんだ。
ゆっきさんと行動を共にしていたからだろう、私はとても長い間話を聞かれた。私と同じタイミングで呼ばれた人たちが全員話し終えても、その次に呼ばれた人たちが話し終えても私は話し続けた。
私たちは公園の中心へ集められ「安全性が確認できるまで、ここに残ってください」と言われたので、そのまま待機している。始めのうちは、あの人半裸だったから殺されたんじゃない?ほら、セクハラを凄い気にする女の人とかにさ。なんか話が聞こえたんだけどさ、ローション塗って死んだらしいね、なんだか間抜け。などと従業員達が話していたが、しばらくすると話は止み、スマホを弄るようになった。
警察官らは簡単な事情聴取が終わると一ヶ所に集まり話し合った。メモを交互に見せ、情報を共有しているのだろう。
私たちに話が聞こえないように、彼らは公園の端で話している。その側にある低木のなかで、何かが銀色に輝いた気がした。