湯けむり温泉殺人事件 後編5

 遊園地からの帰り道。veiは思考を巡らせていた。
 そうね。まずは情報を整理しましょう。この事件の核である被害者は9:30ごろ熱海につきその後ranranと気の向くまま歩く。昼食をとり、12時過ぎにホテルにチェックイン。自室にてローションを塗ったあとranranの部屋へ移り雑談をしたり、将棋をしたり、動画を見たりして過ごす。ローションを落とし19時ごろ風呂に入る。風呂上がりに飲み物を一つ買い、自室へ戻る。その後はおそらくローションを塗り直し自室から出ることなく就寝する。こんな感じね。あのローションに含まれていたサリンの濃度だと四時間あれば死ぬ。つまり犯人は13時から19時の間にサリンを入れている。
 アリバイがある者の裏は全てとれた。あとは動機になりそうな情報――被害者との繋がりとか、気が狂っているとか――がほしいけれど、そこは警察に任せるしかないわ。スマホやパソコンなどを押収して被害者と関わりがなかったか調べているみたいだし、私は動くだけ無駄だわ。
 となると必要なのは被害現場の情報。被害者が最終的に死亡したところは旅館の自室。旅館の部屋はほぼ全て同じ構造をしており、一度でもどこかの部屋へ入ったものは他の部屋のようすを想像することができる。写真をみると、手前が洋装で奥が和装になっている。玄関の側にトイレがある。部屋のなかにあるものは、小型の冷蔵庫、テレビ、机、ソファ、座布団、金庫。部屋と部屋が繋がっているダクトはない。部屋を行き来するには廊下を通る必要があり、そこを歩けば必ず監視カメラにうつる。
 監視カメラによると被害者の部屋へ入ったのは給仕だけ。ヴァンパイアみたいに写らない能力があるなら別だけどね。
 こうなると、一番可能性が高いのはranran……けれど、わざわざ旅行先で殺すかしら。普段いる場所のほうが誤魔化しやすい。だめね、考えるにはまだまだ情報が足りない。
 警察はまだ調べているだろうし、時間が空いたわね。観光をする気分でもないし、どうしようかしら。どうしても事件のことを考えたくなる。色々な視点から考えれば解決の糸口がつかめるかもしれないし、犯人の視点から、つまりどうサリンを混ぜて殺すかを検討しましょう。少し、気が滅入りそうだけれど。