湯けむり温泉殺人事件 前編2
「離れてください!離れてください!」
恰幅のいい警察官が野次馬を必死に離そうとしている。
「やきおじ警部、どうしますか」
「まず野次馬を遠ざけよう、nyancatくん。鑑識作業はそのあとだ」
作務衣姿の女性が手をあげる
「あ、あの! 救急車よんだほうがいいでしょうか」
「いや、もう呼んである。そんなことは気にしなくていいから、早く離れなさい」
しかし、作務衣姿の女性はおろおろするばかりで動こうとしない。俺も含め、皆が混乱している。そりゃそうだ。殺人現場に出くわしたんだから。そんなものに慣れている人なんて、警察官くらいだろう。
そこへ、場違いに明るいこえが届く。
「Hi, guys. Anything wrong?」
声の届け主は銀髪をなびかせ、気負わずにこちらへ歩み寄ってくる。
「Could it be that there was a case? If you're on the case, let me handle it.」
彼女の登場により、場が静まりかえる。
「あ、あなたは!イギリスで人気上昇中、どんな難事件もぱぱっと解決する女子高生探偵veiさん!?」
「おい、なぜ説明っぽい口調で話しているんだ、nyancatくん」
「今の雰囲気に合うと思って」
「まったく……君は相変わらず変わっているな」
veiがいた。トロコンを目指して徹夜するまえ、画面の向こうにいた彼女がここにいることに困惑する。
なぜここにいるのか、なぜシャーロックホームズがかぶるような鹿撃ち帽をしているのか、なぜバーチャルの姿なのか。疑問が浮いては張り付き、二日酔いの頭が弾けそうになる。
「イギリスで人気だろうが、事件の捜査は我々警察の仕事だ。vei……だったか?きみがすることはない」
「英語で言わないと伝わらないですよ、警部」
「では、通訳してもらえるか」
「……翻訳機、使いますか」