湯けむり温泉殺人事件 中編2
十数分後、先程の警察官たちがやってきた。警部は露骨に口角が下がっている。
「まったく……今度は何が起きたんですか。また麻雀事件ですか」
「いえ。こちらを見ていただければわかるかと」
警察官が数人部屋へ入る。彼らはベットの横に並び、警部は顔を、nyancatはタオルケットを剥がし胴体を観察した。
「ただ眠っているように見えますが……まさか、死んでいるのですか」
「はい、おそらく。発見してからずっと胸も肺も動いていません」
「なるほど。ところで、彼は綺麗好きでしたか」
警部が部屋の散らかっている様子を見やり、問いかける。
「あまり物の配置にはこだわっていなかったと思います。おそらくですが、荷物が散らかっているのは元々かと」
「そうですか。nyancatくん。目立った外傷はあるかね」
「とても綺麗ですね。古傷さえありません。病死の可能性も視野に入れるべきかと」
「いえ、そんな。ゆっきさんは健康そのものだったと……思います」
警部が私を優しくみつめる。警部は微笑み、しばらく口を開かない。
「そう思う気持ちはわかります。ただ、最初から可能性を否定して真実を見逃したら、彼が浮かばれないと思いませんか」
部屋にいる人たちが作業を止め、さらに私たちの方を見る。今、ゆっきさんを発見する前のように音が消えている。ただ、流れている空気が違う。
真実を見つけよう。そのために、先入観を排除して話さなければならない。
「なにを、話せばいいですか」
「まずは、そうですね。彼の人となりを」
警部の質問に、なるべく冷静に答えていく。その間警察官たちはあわただしく動いていた。鑑識と思われる人が複数やって来て、何度もフラッシュを焚いた。途中で鑑識の人が二名帰っていった。
「わかりました。確かに彼は健康的で、突然病気になったとは考えにくいですね。昨日、彼におかしな様子はありませんでしたか」
「特にはなにも。普段どうりでした」
「そうですか。では、休んでください。なるべくここに近い場所で」
「このあと、どうされるのですか」
「…………周りの部屋の人に話を聞きます」
ロビーへ降りる。自販機で缶コーヒーを買う。開ける。飲みたいという気持ちは起きてこない。目の前の植物を眺める。缶コーヒーが冷めてゆく。
大分時間が過ぎた。呆けている間ここに人が来ることはなかった。
扉があき、警察官があわてて入ってくる。どうにも気になるので、ついていった。
「警部!被害者のローションから毒が検出されました!」