湯けむり温泉殺人事件 後編8

 その後監視カメラや目撃証言を集めると、青い服の少年が旅館へ向かい温泉の様子が見えるところでずっと待機していたことが証明された。また、黒い服の少年と青い服の少年が公衆トイレの前で待ち合わせ、トイレへ入ったことも分かった。出てくるときはやはり、腕時計の付け方が反対になっていた。残念なことにアリバイ偽装に使われた少年は見つけられなかったが、これらの情報を警察がうまく使い、つまり追い詰めるようにじわじわと小出しにして、取り調べをおこなうと、彼は自白した。
 動機について、彼は、
「RANRANさんはいい人。好き。まず声が大人っぽくてとても好き。 性格も落ち着いていて、紳士的で、大人っぽくて好き。それなのに戦闘機好きな一面があってそのギャップにとてと萌える。 戦闘機の話をしている時のあの輝きようが、とても楽しそう。 それから、なんやかんやで同じネタを何回もやっちゃう所もすこし大人びた中にある子供っぽさのようでとてもいい。
それと丁寧な言葉遣いで日頃からとても良い人なのに、自分の好きな物になった瞬間に冗談も混じっていてそこも可愛い。 そして私がb-29を戦闘機と間違った時に「b-29は戦闘機ではなく爆撃機です 以後気をつけるように」と言った後に我に返り、「あっ、すみません 私も興味がありますから、話してください」とすこし擁護していた。 自分の行動にふと我に返るところと大人っぽい私へのフォロー、未だに覚えている。そんな、そんなranranさんをあの男が誑かした。許せなかった。ranranさんは僕と愛を誓ったのに。ranranさんは僕の物なのに。それなのに、男は図々しくranranさんと旅行に行った。だから殺した。だから殺したんだ、当然の報い」
 そう異常にギラギラした、欲望的で、手前か奥かどこを見ているのかわからない、どこも見ていない目をして語った。語る途中で、片方の唇だけが上がったり、目が大きく見開かれたりしていた。
 この事件で一番不可解で、最も重要な部分、なぜ中学生がサリンを持っていたのかについて
「親が憎かった。上から目線で、こちらの気持ちを考えず、まるで人形のように扱ってくるのが許せなかった。親は気分が悪いと僕を殴った。決まって腹だった。回りにばれないように腹を狙っていた。親が気にしていたのは世間体で、僕のことはちっとも考えてなかった。抗議をしたら、殴られ、蹴られ、体にしばらく消えない傷と、心に全く消えない傷がついた。そんなとき、友人がダークウェブへのアクセスの仕方を教えてくれた。神か、何かがやれと言っているように思えた。サリンを買った。サリンを使ったら親に言うことをきかせられると思った。何度もサリンを目の前に置いた。何度も開けようとした。けれど、出来なかった。親にかけてやる情なんてこれっぽっちもないのに、出来なかった。そのままサリンはしまってた。あの男に対してはなぜか使えた」
 こう述べた。未成年、それも中学生であること、家庭環境により精神的に不安定だったと思われることから、刑は軽くなった。ただ、今回のようにうまく換気ができていないと、周囲にも影響が出かねない犯罪だったので、少年院ではなく刑務所へ送られた。