湯けむり温泉殺人事件 前編1
朝がきた。外は綺麗に晴れ渡っている。結局、トロコンはできなかった。気分を切り替え、朝食を食べる。三徹がたたって、戻してしまう。最悪な朝だ。天気なんて関係ない。史上最悪な朝だ。
今日は久しぶりに外にでて、リフレッシュをしよう。そう考えても体に力がまったく入らない。結局、三時間ほど寝ることにした。
視界がまわり、耳鳴りがする。三時間の睡眠では余計にひどくなるようだ。それでもなんとか体を起こす。しばらく待てば歩けるようになる。顔をあらい、髪をととのえ、歯をみがき、身支度をすませる。
「いってきます」
今日は特別往来が賑やかだ。久しぶりなせいでそう感じるのかもしれない。でも、ここ熱海には夏休みに多くの観光客がおとずれる。やはり、人はふだんより多いのだろう。
なんてったって、道を半裸の男が歩いている。あんなやつ、普段はいない。おそらく観光客だろう。それに、探偵ごっこをしている少年もいる。道行くひとにお金を配るひともいる。こんな異常事態が長期休み以外に起きる訳がない。
この道の先には老舗温泉旅館、素倶留がある。明治時代からあるらしく、この街に深く関わっている。眺望がよく、温泉も素晴らしいので時々芸能人がお忍びでくるらしい。見たことはないが。
ここでゆったりするのもいいかもしれない。
内装は老舗旅館にしてはひどく現代的だった。カウンターは歴史が感じられないほど綺麗で新しかった。ところどころにある太い木の柱をみて老舗旅館だとようやく思い出す。
それぞれの部屋は広く、伸び伸びとすることができた。寝っ転がっていると眠くなり、風呂に行くことにした。
浴槽はさまざまな種類があった。10種類ほどあっただろうか。よく覚えていない。入浴中に日本酒が呑めるというので、沢山のんだことは覚えている。ふろで熱燗を呑むのは初めてだったが、喉を熱が通り、体の中から外から温められ心地よかった。
浴場をでたのは20:00と早い時間だったがそのあとはそのまま寝た。
朝からなにやら騒がしい。窓から外を見ると、数台のパトカーが止まっていた。
なにが起きたのか気になり、廊下にでる。階段を下ると、特別賑やかな階があった。
そこには幾人もの野次馬がいた。人を掻き分けすすんだ。ドアが開いている。
その部屋のなかには、赤黒い液体のなかに頭を浮かべた馬頭の人が倒れていた。