湯けむり温泉殺人事件 後編3
なんとか押しきって情報を得ることができたわ。アリバイがある客はhalpika, 豚のプリントされた人、エナドリ少年だったわ。halpikaにアリバイがあるのはよかった。彼は永遠に私の馬でなければならないんだから、豚箱に入るなんて困るわ。halpikaが犯人でないと証明するために、アリバイを早く調べましょ。
halpikaが出張してまで交渉している会社はここね。エレベーターが壊れているなんて、とんだ災難。おかげさまで階段を何段ものぼることになったわ。とりあえず、この、インターホンを押せばいいのかな。なんだか、変なかんじね。会社のインターホンを押すことなんて滅多にないから。
インターホンから2m先ではもう消えてしまいそうな遠慮がちな声がする。向こうには人が集まっているのだろう、複数人の話し声がかすかに聞こえる。沈黙してからやや間があり、ドアが外側に開かれた。
「どちら様でしょうか、その、会社員には見えませんが、それと、スマホを向けてなにをしているのですか、インタビューなら事前にアポを取ってください」
スマホから英語の音声が流れ始める。男の言った内容を翻訳したものだ。veiがスマホに言葉をふきこむ。
「私は探偵です。殺人事件の調査でここにきました。私に協力する警察の写真あります。私の活躍もあります」
veiはスマホを操作し、スライドして何枚もの写真を見せる。警察の顔、新聞の切り抜き、雑誌のインタビュー、新聞の切り抜き、テレビの特集、新聞の切り抜き、スキャンダルを主に扱う週刊誌、新聞の切り抜き。英語がほとんどだが、いくつか日本のものもあった。そこには『イギリスで大活躍中の美人女子高校生探偵veiがまたもや難事件を解決!そんな彼女の素顔を探る!』ということが書かれていた。
殺人事件と警察という言葉に影響されたのか、男はveiに素直に従った。言われるがままに仲間を説得し、証拠となるカメラの映像を探し、それをveiに渡した。
豚シャツ男の職場はこれほどスムーズにはいかなかったが、やはり殺人事件と警察と言う単語には力があるのだろう、最終的には全員でアリバイとなるものを探してくれた。それらの単語の力もあるが、彼が同僚に愛されていたことも理由だろう。
日は地の底へ眠りにつき、星と、車のヘッドライトと、窓明かりだけが灯っている。よくある、普通の光景。しかし、このなかに普通ではない非日常の探偵と殺人鬼がいる。それでも街は眠る。無理やり、嫌な記憶を忘れようとするように。