湯けむり温泉殺人事件 後編4
チリリリリリ、チリリリリリ、チリリリリリ、チリリリリリ。目覚まし時計がけなげに時を告げる。カーテンの隙間からひらりひらりと柔らかな朝日がこぼれ、その白い頬をぬらす。外に人の熱気はなく、冷ややかな、優しさを持った空気が街を支配している。まぶたがかすかに動き、また穏やかな眠りにつく。チリリリリリ、チリリリリリ、チリリリリリ、チリリリリリ。目覚まし時計が再び時を告げる。タオルケットから右手が這い出し空をつかむ、ベットの縁をつかむ、目覚まし時計をつかむ。役目を終えた目覚まし時計は24時間の休息を得る。
まぶたが半開きのまま、veiは起き上がりそばに置いてある服を着る。ふらふらと台所へあるき、コップを蛇口のしたに添える。こぽこぽこぽ。よく冷えた水が空気をおしのけコップいっぱいに広がる。水がたまるほどにコップのなかのうねりは小さくなる。水は揺れたまま口へはいり喉をならす。
veiは誰もいない街を一人歩く。大通りをあるき、脇道をあるき、時には塀のうえをあるき、ひたすらに遊園地を目指す。既に連絡はとってある。一般の客がくるまえに済ませなければならない。
その遊園地は特別大きくもなく、小さくもなく、綺麗なわけでもなく、汚いわけでもない本当にどこにでもある遊園地だった。管理人は観覧車の前で待っているらしい。
「veiですか」
「はい、私はveiです。協力に感謝します」
「ではこちらへ。本当にあなた一人で捜査するんですよね。警察の方が大勢きて営業を休まなければならなくなると困ります」
今回は仕方がなく、少しだけ嘘をついた。管理人は監視カメラの映像を見せてくださいと頼むだけでは協力してくれないだろう。
映像を早回しでながす。あの少年には目立った特徴がないので、似たような人物が出るたびに映像を止めなければならない。30分が過ぎ、一時間が過ぎた。管理人が貧乏ゆすりをする。それから、しばらく。ようやく目当ての少年が見つかった。その少年の行動を追うと証言通り12時すぎから22時まで遊園地にいたことがわかった。少年の行動だけコピーし、管理人に感謝を伝える。
アリバイの裏がとれた、後はアリバイが無い者のなかから犯人を見つけるだけ、皆のために早く解決しようと、veiは決意を固めた。