井上陽水「最後のニュース」 忘れられぬ人が銃で撃たれ倒れ みんな泣いた後で誰を忘れ去ったの?
ウィキペディアによると、筑紫哲也さんがTBSの報道番組「ニュース23」の初代エンディングテーマとして書き下ろされたのがこの曲「最後のニュース」だ。
筑紫哲也さんと井上陽水さんとの接点は詳しくは知らないのですが、色川武大さんの著書にお二人が登場することから、麻雀などでつながっていたのだろうと勝手に推察している。そういった縁が働いて、この曲が作られたのかしら・・・?
だが、この「最後のニュース」の歌詞は、一般的なニュース報道への大きな皮肉のように受け取れる。
流れるような早口言葉のように歌詞が始まっていく。
「闇に沈む 月の裏の顔を暴き 青い砂や石をどこへ運び去ったの?」
「忘れられぬ人が銃で撃たれ倒れ みんな泣いた後で 誰を忘れ去ったの?」
井上陽水さんのねっとりとした歌い方が、この皮肉をより強調させるが、押しつけがましくはない。
詩的で美しい表現にくるんでいるが、どれも対象が推察されるものばかりだ。中には直接的な表現で訴えているものもある。
「原子力と水と石油たちのために私たちは何をしてあげられるの?」
「親の愛を知らぬ子どもたちの歌を 声のしない歌を誰が聴いてくれるの?」
「世界中の国の人と愛と金が入り乱れていつか混ざり合えるの?」
これほどまで純粋で、本質的な疑問に「ニュース」は、「報道」は何も答えてくれない。答えようともしていない。
井上陽水さんの皮肉に満ちたこの歌を受け止めて、筑紫さんは現実の仕事に打ち込んでいたのだろうか。苦笑いしながら。
サビは達観したような
「今 あなたに Good-Night
ただ あなたに Good-Bye」
世界中で苦しむ人、または声も上げられずに失われていく命に対して、せめて言えることはこれだけ。
「おやすみ」「さよなら」
今ある報道への痛烈な批判、改善への提言と受け止めても、結局何もできていない。せめて、社会で苦しむ声なき声を聞くことを一つ一つ続けていくことだけ。それがジャーナリストの仕事だ。
そして、この美しく、皮肉な歌が引き継がれていく。
2022年8月5日 トラジロウ