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〔ねこねこ小説〕スキーとよしおのエレジー⑤

その六 言えないよしお

 よしお夫婦の子供は独立しており、長男は、時々家に顔を出す。無口で無駄なことはしゃべらない。笑顔を振りまくタイプではないが、人当たりは優しい。もう酒が飲める年齢だが、よしおと酌み交わしたことはない。
 (とっつきにくいが、いいやつなんだろう)
 スキー達にも時々おやつを買ってきてくれる。
 「最近どうだ?」などとよしおも聞いてみたいが、聞けずにニコニコしている。もっぱら長男と話すのは母親の方だ。ずけずけと色々聞き出す。
 (照れ屋だからな)
 いつものようにスキーはよしおにダメ出しした。

その七 驚くよしお

 長男は中学二年生で、少し(?)ぐれた。他校の友達とつるんで遊ぶようになり、学校に行かなくなった。一度は学校をサボってうろうろしているところを、教室から見つけた生徒が手を振って騒ぎ、長男は他の生徒からヒーロー扱いされた。教師達は面目を潰されたかたちになり、激怒した。手分けして長男を探したが見つけられず、結局仕事から呼び出されたよしおが探し出し、教師達はさらに面目を失った。
 長男は学校に連れていかれ、教師達から怒鳴るように説教を浴びた。よしおも聴いていた。
 (届いてないな)
 長男の表情を見ながら思った。
 いわゆる「柄の良くない学校」にはその道に長けた教師がいるが、平和な学校にはいない。そこに「不良」が現れると、怒り慣れてない教師達は、ただ大声を出すだけのヒステリー指導になる。
 帰宅して、よしおは長男に言った。「お前は家族の一員だ。だからここがお前の居場所だ。それだけは忘れるな。」長男の表情が少し変わった。

 その後、長男は少しずつ落ち着き、受験直前に塾に行き、何とか高校進学を果たした。
 高校の入学説明会に、長男とよしおで出席した。説明会の後、制服の採寸や教科書の購入などで、2人は学校内をうろうろしたが、すれ違う生徒が小声で「あいつ〇〇中(学校)の〇〇や」と、長男のことを話しているのを耳にした。それが何人もいた。
 (他校にも知られるほどか)
 派手に暴れていたわけではないだろうが、それなりに幅をきかせていたようだ。
 「お前のこと知ってるみたいだぞ。」
 長男はまるで興味を示さず「別に。知らない奴だし。」と無表情に答えた。
 思春期の男(男だけではないが)は、人から一目置かれると、うれしいし気持ちいいものだ。不良少年はなおさらだ。つっぱっていく以上、他のつっぱりに対し、"引く"ことはできない。そこで踏ん張るのは、なめられたくないからで、逆に人からそれなりの感じで噂されるのは、つっぱり冥利なはず。よしおだって、つっぱって周りからかっこよく見られる青春に憧れた時期が(できなかったが)ある。
 (こいつはそこまで登っている)
 他校の生徒に知られる位置まで到達しているが、そこに頓着が無い。
 (かっこいいな)
 少しにやけながらそう思った。

その八 ちょっかいを出すスキー

 長男は今日も、スキーにはにぼしを、ラムにはチュールを買ってきてくれた。スキー達もしっぽを振って出迎えた。
 よしおや妻は、嬉しそうに長男と話している。
 (自分の子供がかっこいいと思えるのは幸せだ)
 スキーはそう思いながら、チュールを食べているラムにちょっかいを出すべく、タンスから飛び降りた。

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