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〔ねこねこ小説〕スキーとよしおのエレジー①
その一 期待しないスキー
(そんなとこに貼ってもねぇ)
飼い主を募集するチラシが公民館の入口に一枚だけ貼られた。茶トラの子猫の写真。のちに「スキー」と名付けられる猫。
スキーは漁港近くの住宅街で拾われた。拾った女性は、すぐさま猫を多頭飼いしている近所の人に一時的にスキーを預け、飼い主募集のチラシを作って公民館の自動ドアに貼った。なぜ公民館なのか。過疎地の漁港内で比較的人が出入りする場所であることと、その女性が公民館に勤めていることの二つの理由による。
(出入りがあると言っても)
無いに等しい。
スキーは飼い主が現れることを期待していない。
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よしおは、家庭内に何かを求めている。子供も大きくなり、週末も特にすることが無い。そもそも自分は趣味を持てない人間であると思っている(そのことに劣等感を感じている)。
家で妻と二人きりになるのが苦手だが、別に仲が悪いわけではない。だが積極的に一緒に何かしようと思うほどでもない。
(いい年なんだからそんなもんだろ)
子供は自立し、急に現れたギクシャク感。それをなんとかするための何かを求めている。
(ペットがいい)
子供の頃、犬を飼っていた。当時は放し飼いだったが、今は当然無理。毎日散歩させられるか心配。となると猫。家の中をうろうろさせとけばいい(猫が聞けば起こりそうだが)。
だが、猫はどこにいる?ペットショップにいるのは「アメリカンなんとか」のようなおしゃれな、かつ、お高い猫様たち。他に方法はないか。ぼんやり考えているうちに月日はながれる。
よしおは役所勤め。漁港の管理をする部署で働いている。よしおは公民館のチラシを目にした。
(運命だ)
だか、茶トラはイメージしていなかった。
![](https://assets.st-note.com/img/1727273384-xM83DSQtLIuwn1jpgHcezEfV.png?width=1200)
二 いぶかしがるスキー
数日後、よしおはスキーと呼ばれることになる猫に会いに行く。のちにスキーと命名するのは、このよしおである。
(あのチラシでよく来たな…)
スキーは感心した。だか、あまり風貌があがらない、このよしおという男をいぶかしがった。
(まず顔が…)
パッとしない。タレ目だが、眉はさらに下がっている。やさしさは滲み出てるが、気の弱さもまたしかり。
「一生懸命育てます。私に預からせてください。」
あっさりスキーの行き先が決まった。
スキーはオスである。去勢手術の必要があった。初めて猫を飼うよしおは抵抗がある。
(人間の都合ではないか)
しかし、やらないわけにはいかぬと、動物病院に連れて行った。手術は事務的にあっさり終わった。帰りの車中、よしおはスキーをチラチラ見ては「ごめんな」と何度も小さく謝った。
(まぁ、いいやつではあるようだな)
スキーの少し痛む傷口を、よしおのやさしさが癒していた。
3LDKのマンションによしおと妻、そしてスキーが暮らす。ごはんをあげたり、トイレを掃除したり、時に動物病院に連れて行ったりと、夫婦は急に忙しくなった。50代半ばの夫婦には、それなりの負荷がかかる。
しかしながら、日に日に心が奪われるように増していくスキーへの愛情が、負荷を軽くしていく。
(いいもんだろう?)
スキーは鼻高々に、よしおに微笑んだ。