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寺田和代「本と歩く アラ還ヨーロッパひとり旅」 第2回 ジョージア篇(11)
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ジョージア篇(11)
歳を重ねた旅の愉楽を味わい、ピロスマニの絵に出合う〔シグナギ〕
翌朝めざめた時、いくつの自分がどこにいるのか、一瞬分からなかった。
日常生活や記憶の重力から解放され、国内ひとり旅に熱中した学生時代の感覚だった。
2度と来ることのない異国の宿で、しばしば体験するこのタイムトラベラー感覚、これもまた歳を重ねたひとり旅の醍醐味だと思う。
その感覚が消え切らないうちに着替え、ほとんどひと気のない通りを散歩した。
まだ8時前というのに絨毯|《じゅうたん》売りのおばさんが路上に商品を並べていた。ガイドブックによれば、イランやトルコのシルク高級品に比べ、ジョージアの山岳地方で作られる羊毛や綿製のラグは庶民が日常生活で使えるものが多い、とある。
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いつか読んだ小説か観た映画かのシーンを歩いているような非現実的な浮揚感。年齢はそういう感慨の深度も深める気がする。やっぱり旅はやめられない。
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深さ1mほど。この壺にぶどうを入れて土に埋め、発酵、熟成させる
宿にもどって朝食をとったあと一家に別れを告げ、いよいよピロスマニの作品を観にシグナギ博物館へ。
2007年創立、ジョージアきってのハイレベルな国立博物館で考古学、民族学、中世の展示を中心に、楽器、武器、祭服、地域のライフスタイルを反映した展示物のほかニコ・ピロスマニの作品16点を常設展示する。彼の生誕地がここからほど近いミルザアニ村だったことから、トビリシのナショナル・ギャラリーと並んでピロスマニ作品を鑑賞できる国内2大拠点の一つになっている。
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2階のピロスマニの展示室に入った時、鑑賞者は私ひとり。静寂のなかで他の鑑賞者に気をつかうことなく、これほどの作品群に心ゆくまで向き合えるなんて!
優雅な服装と物腰の女性が憂いをただよわせる「寝そべる女」、のほほんとした表情にこちらの口元もつい緩む「運搬人のソソ」などのポートレートはまるで目の前にその人がいるような存在感。
幼い子連れの母親が果物を買う「果物屋台」は、母の上着の裾を握る子のいたいけさ、果物の豊富さ、やりとりを見守る動物たちの穏やかな気配が一体となって、温かな幸福感に包まれる。
最も強い印象を受けたのは幅3.5mの大作「収穫期」だ。ぶどうやりんごの収穫とワイン作り、村人の祝宴が同時に描かれた平和で豊かなジョージアの村の暮らし。
空には鳥たちまでもが喜びを全身に漂わせて集い、生きとし生きるすべての命が森や畑とともに祝う実りの豊穣。前に立つ私までその豊かさと喜びの世界に迎え入れられる感覚に酔いしれ、しばらくそこを離れられなかった。
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「赤シャツの漁師」は5ラリ紙幣、「ノロジカ」はコインに
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