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林浩治「在日朝鮮人作家列伝」08 金鶴泳(きんかくえい/キムハギョン)(その0)
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金鶴泳──不遇を生きた在日二世作家(その0)
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(肖像画依頼中)
金鶴泳は群馬県出身の在日朝鮮人二世の小説家だ。
小説「凍える口」で1966年28歳でのとき文藝賞を受賞して作家活動に入った。
1935年生まれの李恢成より3歳若いが、李恢成が1969年に群像新人文学賞を受賞して商業分文壇に登場したのより3年早かった。在日朝鮮二世作家として最初の商業作家だった。
姓名の韓国語読みは「キムハギョン」。
出世作の「凍える口」は、吃音者で在日朝鮮人二世である主人公の社会との不遇性を描いて多くの共感を得た。
主人公は民族問題より、吃音による不遇を第一問題としている。大学の研究室などでは吃音が酷くなり発表できなくなることもあるが、自分より吃音の酷い友人磯貝の前ではどもらないで喋れる。磯貝の自死後、磯貝の妹と親しくなり恋人関係を続ける。
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同世代作家である李恢成が「民族」を肯定的に押し出しながら能動的な文学世界を創作していったのに比し、金鶴泳は、自己の内面を否定的に辿ることが多く「内向の世代」に繋がる作家とも言える。
「石の道」「夏の亀裂」「冬の光」「鑿」の四作が芥川賞候補作となったが、最後まで受賞できなかった。
1985年1月4日群馬県の実家で自殺。46歳だった。
作品に『凍える口』(河出書房新社 1970年)、『あるこーるらんぷ』(河出書房新社 1973年)、『石の道』(河出書房新社 1974年)、『鑿』(文藝春秋 1978年)、『郷愁は終わり、そしてわれらは――』(新潮社 1983年)、『金鶴泳作品集成』(作品社 1986年)、『凍える口―金鶴泳作品集』(クレイン 2004年)、『土の悲しみ―金鶴泳作品集Ⅱ』(クレイン 2006年)などがある。
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『土の悲しみ──金鶴泳作品集Ⅱ』クレイン、2010年
→金鶴泳(その1)につづく
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*本文の著作権は、著者(林浩治さん)に、版権はけいこう舎にあります。
◆参考文献
◆著者プロフィール
林浩治(はやし・こうじ)
文芸評論家。1956年埼玉県生まれ。元新日本文学会会員。
最新の著書『在日朝鮮人文学 反定立の文学を越えて』(新幹社、2019年11月刊)が、図書新聞などメディアでとりあげられ好評を博す。
ほかに『在日朝鮮人日本語文学論』(1991年、新幹社)、『戦後非日文学論』(1997年、同)、『まにまに』(2001年、新日本文学会出版部)
そのほか、論文多数。
2011年より続けている「愚銀のブログ」http://kghayashi.cocolog-nifty.com/blog/は宝の蔵!