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寺田和代「本と歩く アラ還ヨーロッパひとり旅」 第4回 イタリア・プーリア州篇(8)
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(8)“異世界ホテル”に泊まり、洞窟生活に思いを馳せた
洞窟生活や上下水道の不備がもたらす衛生面の悪化から1954年には住民すべてが新市街地へ強制移住させられ、一時は廃墟となったこの街が今に向かって舵を切ったのは1970年代。サッシの文化的・芸術的価値の見直しが進み、1993年に世界文化遺産に登録されたのを機に、街の保存と再開発が今も進行中だ。
道が細いせいか景観保護のためかバス便がなく、駅から約20分かけて歩くしかない小さな宿もサッシのリノベーション組。ここに泊まること自体を旅の楽しみの一つにしていた。
受付係のマルコに案内されて部屋に入るや思わず歓声をあげた。
天井の岩が頭上に大きく張り出したさまはまさに洞窟。人生初の異世界ホテルだ。
ここを見て、とマルコ。
「サッシ地区が海底にあった太古の名残の化石です」。
驚きのあまり、ホンモノ!? と日本語で叫んだ私に
「オリジナルです」と厳かにのたまう。同じ反応を示す世界中の客たちに言い続けてきたのだろう。
ベッドに横たわると、ちょうど “目があう” 位置にそれが見え、不思議と心が休まる。化石にはリラクゼーション効果があるのだろうか。
そのまま昼寝してしまいたい自分の体を必死に励まし、街歩きへと押し出す。明日ここを去るまでに丸1日もないのだ。
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サッシ歩きは楽じゃないから、とマルコが効率よく回るルートを書き込んでくれた地図を手に洞窟(部屋)を出た。
坂と階段が延々続く街歩きは確かに楽じゃない。石の硬さが足裏から膝や腰の骨に響き、慣れないせいか緑や土のない光景に奇妙な圧を感ずる。
まずはホテルから最も近いグロッタの家へ。
1700年代、小作農民が実際に暮らしていたサッシ内に当時の暮らしを再現したハウス資料館だ。
内部は畳20畳くらいだろうか、光は小さな出入り扉上の約20㎝角の灯取りから入るのみ。もちろん今は適切な照明がほどこされているものの、実際は昼でも真っ暗だったろう。
高い天井のおかげで狭さが緩和されているけど、台所とトイレが隣り合うこの洞窟で最後に暮らしたのは11人とロバ、牛、数羽の鶏だったと聞き、その厳しさを思った。
地区の全住人が強制移住させられた1954年までは、水は雨水を室内の井戸に引き込んで利用し、トイレはテラコッタの壺に、という中世からの暮らしが続いていたそう(現在の地区はもちろん上下水道完備)。
仲良し家族ばかりじゃないし、そこそこ平和な家庭でも狭い場所に家畜ともども詰め込まれたらトラブルも多発しただろうけど、
「ひとりになりたい時に隠れる小洞窟はたくさんある」と学芸員。その一言で自分のことのように安堵した。ふー。
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