林浩治「在日朝鮮人作家列伝」05 呉林俊(オ・イムジュン)(その9)
呉林俊──激情の詩人の生涯(その9) 林浩治
8)詩人・作家として
1950年代、呉林俊は6冊の詩集を自費出版している。1960年代には『京浜詩派』や『詩人会議』に詩を発表していたが、他の朝鮮人作家たちと同様日本語での文学活動を控え気味だ。
出版は在日朝鮮人が経営し朝鮮ものの本を多く出した新興書房から2冊の翻訳詩集を発行した。
60年代末、呉林俊は日本軍二等兵として満州に従軍した在日朝鮮人青年である自分を描いたノンフィクションの出版を考えていた。
朝鮮ソウルで解放であるはずの日を、敗戦を迎えた日本兵として迎えねばならなかった在日朝鮮人としての告白を書かねばならなかった。
呉林俊に三一書房を紹介したのは朴寿南だった。少女殺害事件の犯人李珍宇との交換書簡をまとめた『罪と死と愛と』の著者である。1969年2月『記録なき囚人』は出版された。
この後亡くなる1973年までのあいだに在日朝鮮人を論じた評論集9冊を出版した。
10冊目の『伝説の群像』と詩集『海峡』は没後の出版だった。
これらの論考で在日朝鮮人とは何か。在日朝鮮人が日本語で書く意味は何なのかと問い続けた。
そして植民地朝鮮から引き揚げた日本人としてカウンターパートにあった小林勝や村松武司との交流は、呉林俊の自己点検に繋がった。呉林俊は日本を嫌ったり憎んだりはしなかった。むしろ愛し愛された。
→(その10/最終回)へつづく
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