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寺田和代「本と歩く アラ還ヨーロッパひとり旅」 第1回 アイルランド篇 ――(14)

(13)街との再会。あるだろうか残り人生に(上) からのつづき

アイルランド篇――
(14)街との再会。あるだろうか残り人生に(下)


蒸溜所の帰路、夕食には少し早かったけどハーヴェイいち押しのカフェ『The Church Café Bar』へ。
1699年創立のカトリック教会をそのままカフェバーに転用、というちょっと信じられないような来歴をもつ。
朝、見学したクライスト・チャーチの規模にはかなわないとしても、石造りの堂々たる建物内部はパイプオルガンやステンドグラスをそのまま活かした荘厳な雰囲気。

昔日の面影をしのばせる石窓近くのテーブルに案内され、ギネスビール1パイントと本場のフィッシュ&チップスを注文する。
チップスこそ世界共通のおそらく冷凍のアレだけど、大きくてふわふわ、味わい深いフィッシュは、テーブル係の女性の説明通りアイルランド産生タラを使った本格派に違いなく、ギネスとの相性のよさったらない! 日本のどんなに良心的な店でこれを真似ても追いつけない味。
その国の気候風土や場所もまた、食べ物や飲み物の一部なのだと改めて感嘆する。

The church caféのフィッシュ&チップスと、ギネスビール。合う〜
同ホール。大きなバーカウンターの向こうに教会の面影残すオルガンが鎮座


さきほどのテーブル係が20時からライブがあるよ、と教えてくれたけど、あと2時間粘る自信がなくて、次の機会に、と応えて店を出る。
次の機会? あるだろうか。残り人生に。

店を出たすぐの路上で、ストリートシンガーがすばらしい声とギターでボブ・ディランの『Knockin’on Heaven’s Door』を演奏し、ぐるりと囲んだ仕事帰りふうや散歩中の老若男女が手を叩いたり、サビ部分を一緒に歌っていた。音楽やダンスとともにある街の日常。なんて豊かだろう。

帰国日の朝。
すっかり好きになった屋根裏部屋とハーヴェイに別れを告げた後もダブリンを去りがたく、荷物を抱えて中心街へ。
旅行者が集まるテンプルバーあたりを目に焼き付けるように歩き、最初に降り立ったオコンネル橋を渡り、時間ギリギリまで粘って空港行きバス停に向かう。

街との別れも人とのそれと同じ。好きになった人と別れるように名残惜しく、悲しい。
人生の残り時間を考えれば、若い頃とは違って、きっとまた会える、とは思えなくなったことが切なかった。

ダブリンを代表するエリア、テンプルバーのあたり。
老舗バーが集まり、常にどこからかライブ音楽が流れている


 (了)
※登場する価格などは2022年10月時点のもの

 
 
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