寺田和代「本と歩く アラ還ヨーロッパひとり旅」 第1回 アイルランド篇 ――(1)
アイルランド篇
――(1)旅先から再び人生が始まる高揚感
2022年10月、コロナ禍の3年プラス半年間のブランクを経て、37回目の旅先に選んだのはアイルランド。
私は60歳を超え、ふとした時に体と頭の衰えを突きつけられてはショックと諦めを行き来する日常を生きている。だから深夜の便でダブリンに発った時は、到着と同時にまた新しい人生が始まるような、旅を始めた頃と変わらない高揚感が込み上げたことと、この歳になってなお旅に魅了され、実践できる幸運にただ胸を締めつけられていた。
中東ドバイで乗り継ぎ、約22時間かけてダブリン空港に着いた日は、そこからバス約30分、近郊スウォードという村のB&Bに直行し眠れるだけ眠った。高い山にアタックする登山者の高地順応みたいなもので、初日は移動の疲れをリカバリーし、旅先の空気に心身を慣らす。
すると不思議。翌朝目覚めた瞬間から“どこにでも行けそう”な高揚感と体力がヨワヨワな心身に満ちている。
旅は自分の内なるワイルドネスに出逢わせてもくれる。
翌朝、バスで再び空港に戻り、高速バスに乗り換えて2時間半。アイルランド島の西端、大西洋に面したリムリックへ。
最初にこの街を選んだのは、周辺地域がアイルランド人の“心の琴線にふれる場所”として多くの小説に登場すること、今回の短い旅には組み込めなかったけれど、ケルト(古代アイルランドの伝統)文化発祥といわれるアラン諸島に最も近づけるエリアだったから。
バスが終点リムリックに着くや、1階がパブ、2階が簡素なB&B(8ヶ月前予約で朝食込1泊60ユーロ)というアイルランドによくあるスタイルの宿に荷物を預け、すぐさま街歩きへ。ま
ずは、高速バスがバス停に到着する寸前、車窓から見えたケルト文化の専門書店『The Celtic Bookshop』を探す。
どんな街でも書店巡りは市場散策と同じくらい楽しくて、ほんのひと言でも誰かと言葉を交わす機会を拾える場所だ。
→(2)リムリック出身作家の『アンジェラの灰』に出会う へつづく
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