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とらぶた自習室 (24) 勉強メモ 野口良平『幕末的思考』 第3部「公私」 第2章-3

【勉強メモ】野口良平『幕末的思考』 みすず書房
第3部「公私」 第2章「滅びる者と生き残る者」-3


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(筆)栗林佐知
2023年9月8日のメモ

■ 北村透谷の課題を受け継いだのは?


第2章「滅びる者と生き残る者」-1,2の、山路愛山と北村透谷の話の続きです。
理想を分かち合う友なく、一人、軍事大国化する世から旅だってしまった…北村透谷。
透谷の孤独な思考を受け継いだのは?

-3で著者は、透谷と同世代で、透谷の死後20年生きて文学の仕事をした、夏目漱石の「こころ」を取りあげています。
以下、いつにも増して理解の届かない、ワタクシのメモですので、参考にもしないでください。
「いや、これはこうじゃないの?」というご意見がありましたら、是非教えて頂きたいです~!

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■夏目漱石「こころ」

著者は、北村透谷という人を
《「内部生命」を掲げつつ市民宗教への抵抗に殉じるに至った》(p247)人だとしています。
「"個人の心(内部生命)が基本だ!"という考えをもって、天皇制という市民宗教(集会、布教の自由を許さない)への疑問を突きつけ、力尽きて死んでしまった」人、 ということでしょうか。

透谷の命がけの問いを受け継いだ仕事として、著者は、夏目漱石の「こころ」をとりあげ、解いてゆきます。

「こころ」のストーリーは、”過去に、利己心から「K」を裏切ってしまった「先生」が、秘密を若い世代の「私」に打ち明けて自死をとげる”というもの。
なのですが、そんな「先生」は遺書に、自殺の理由として「明治の精神への殉死」をあげている。これはなぜなのか。
明治の終わりの殉死、ときけば、乃木希典の明治天皇への殉死がすぐに連想されますが、漱石はこういう殉死をどう思って、こういう設定にしたのか。
著者は、「こころ」の先行研究(森谷篁一郎『漱石「こころ」その仕掛けを読む』、松元寛『漱石の実験: 現代をどう生きるか』を紹介しつつ、読み解きます。

① 「先生」は己の「倫理意識」と「利己心」のせめぎ合いのうちに死を選んだのですが、これを著者は、 先生の自殺が 「市民宗教(天皇バンザイ)への帰依」と 「市民宗教からの自由」の 「意識相克」を照らし出す仕掛けとうけとることもできる、という。
乃木大将のモノマネをする、ということが、 「殉死に倣う」ということであると同時に、「異化」の目線を醸し出す。(まねすることの戯画化、ということは透谷が論考の中で言い残している)。 つまり、天皇バンザイという考えから体を離した所に身を置いている姿勢をも描いている。

②「 先生」の遺書を年下世代の「私」が受けとる=利己心も含めた私情(先生が「K」を裏切ったこと、それを苦しんだこと)を否定しない契約社会のあり方を提示しているのかも。
(山路愛山の言うように「健康で正直で優秀な人しか生きていけない社会」でなくて、「ズルくてダメで後からくよくよするしかない人の心を、否定しないでしっかり描いた」ということでしょうか)。

で、そうみると、「透谷の死」も、透谷が抱えていたスッキリ答えの出ない苦しみを、次の世代に引き継いでいた、ともいえるかも、と。

漱石の「こころ」は、透谷が挑んで玉砕した相手が何だったのか、という問いに、同じように直面している。
先生が殉じた「明治の精神」とは、 “健康で堅実で清くそれでいて無慈悲に「弱肉強食」” というバケモノなものだったけど、「明治の精神」に対抗すべき「人の心」「内部生命」は、その力にあまりにも限界があった。
そのことを「先生」「K」透谷は知ってしまっていた(自殺してしまった)。
じゃあわたしらはどうすりゃいいの??
(答えはないと漱石は言ってる。答えはないけど「幕末の志士のように斬るか斬られるかの覚悟で文学をやりたい」と語っているそうです)

④ 「先生」の造形=北村透谷という“もう一人の「K」”の「なぞり」のようにも見える、と。
(うーん。ちょっと私の頭では、パズルみたいな……)

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ちょっとむずかしくて、「理解し得た」とは言えない第3部第2章-3ですが、 透谷が悶絶して一人で死んだのを、著者は、"透谷の問いかけと死を歴史空間に宙ぶらりん、にしてはあまりに惨い、そうではなかった、誰か同じ問題意識を辿った人があるはずだ"と、心を込めて細道を探査しているように思えました。

いやーほんとうに透谷、もう少し生きてくれなかったでしょうか。
せめて日本語が言文一致の書き言葉を獲得してくれるまで。
そうしたら新しい書き言葉でたくさん書き残してくれたし、 いやそれよりなにより、だましだまし元気で生きてほしかった。(涙)

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