弟 エピソード6
アパートも見つけた。布団等その日には届かなかったので、ホテルにとまって、その夜飲酒していた話はしたと思う。翌日アパートに訪ねて行った。
「俺のやることに、干渉しないでくれ」というような言葉を、私に投げつけてきた。怒鳴り声も上げた。好きな事をして、にっちもさっちもいかなくなってから、後始末を丸投げしなければ、好きなようにやってくれていいのだけど。萎れて、憐れで
「神様 仏様 お姉さま」を何回も繰り返すことになった。新しい生活のために、必要なものを用意するように、父から預かったお金をわたしてあった。買い物の量を見て魂消た。明らかに必要ないものを山のように買い込んでいた。一人では運べなくて、店の人が配達してくれると言う。草履は向こうで使用していたものを、送ってあるのでちょっ待てば、手に入る。
なぜこんな行動になってしまうのか。要因と考えられる一つは、兄がいいものを先に自分のものにしてしまい、弟には自分がいらないものだけを回していた。家族もそれで良しとしていた。跡取りだからという理由で、だから弟は自分が確実に手に入れられるときは、あれもこれもとになってしまうのではないか。これはある栄養素が足りていない人が、過食に陥いる状態と似ている。何が不足しているかを見極め、それを必要なだけ摂取すればいいだけの事なのだが、飢餓状態なので、自分の状況を見極めて、判断することができなくなっているのだと思う。多重債務に陥った状況も、この延長線上にあると思う。
「長男はいい」が弟の口癖だった。その思いが、弟の行動に影響を与えていたのはまちがいない。自分が悪さをしたとしても、長男の既得権の比べれば大したことはない。自分は遊ぶためには、借金しか方法がない。親が借金を返してくれたとしても、それはあたりまえではないか。自分の貰い分の範囲だと思っていたふしはある。長男は優しくていい子だと周囲から見られていた。そういう面もあったことは認める。よく聞く話だが、結婚をきっかけとして、長男はより現実的というか、実務的になった。まず弟を排除しようとした。土産を持たないなら、実家にくるなと言った。それは、私もその場に居合わせた。弟は泣いた。長男の嫁が弟の妻に
「このうちのものは、竈の灰まで自分たちのものだ」と言ったという。私はその場にいなかったから、どういう状況でその言葉が発せられたのかわからない。そういう言葉だったかも不明だ。ただ弟の妻はそのように聞いたということだ。
「竈の灰ずいぶん古いことを言う」とその話をした私に向かって父は言った。思い込みは避けたいが、言いそうな人ではあった。それ以降、弟は借金が返済できなくなるまでは、実家に近づこうとはしなくなった。弟の家を建てる時も、借金返済も、父母は長男と私には隠れてやっていた。