弟 エピソード13
弟はデイケアに2回行っただけだった。私はそれを後で知った。
「階段が急で降りるのが怖かったから」と弟は言い訳をした。弟はアパートの2階に部屋があって、外階段は傾斜が45度はゆうに超えている。足に障害を持つ私には、上るにも下りにも苦労するし、怖い。そういう条件だったから、私は食事も入浴もお任せできる施設に入所して貰いたかった。自分でもアパート暮らしは無理だと、やっと感じたみたいで、施設に入所することを承知した。探すのは私である。何軒か施設を訪問して、こちらの要望と合う施設を見つけた。ネットで探した。そこに入居すると10万円支援金がでるという。結果的には真っ赤な嘘だった。でたことは出たが数千円だった。会社を運営していく必要があるので、手数料を取るのは当然だと思うが、10万円で呼び込みしているから、これから探す人は注意したほうがいいかもしれない。いや留意するのは施設側だと思う。10万円を払うのだから。誠実なサイトもあるかもしれないし。
夫の援けを借りて、日常生活に必要なものだけを持って引っ越しもできた。けっこう広い個室だった。ベッドも置いてあった。テレビは今まで使っていたものがある。テレビに関しては感心したことがある。NHKが受信料を請求してきたことだ。受信料は委託された会社が担っているようだが、意見は無視して請求だけ丁寧にする姿勢にはあきれるが感心もする。スマホでテレビが見れる機能がついていると、受信機だと認定されるとのことで、テレビを見れないスマホに衣替えした人も多いと聞いた。では車のナビはどうなるのだろう。この国は税金を含め、保険料等、徴収にはすごく熱心だと知っている。
ともあれ、弟が施設に入所したことで、私は心底安堵した。おかずの定期宅配からも解放された。倒れていないかしらと気をもむことも減少した。病院に行く時は、車を施設の前につけると、スタッフさんが車まで弟を支えて、連れてきてくれる。何よりも嬉しかったのは、入浴が週3回もあることだった。デイケアを勝手に断ってからは、弟は1度もお風呂に入っていない。紙タオルを渡したが、封をしたままの紙タオルを引っ越しの時発見した。煙草と水の宅配は残った。1週間分のセブンススター箱3箱とシリカ水、シリカの効用は販売元はいっぱい記述している。私は新陳代謝を高めると言うことで、癌が巣食ってる組織が多少修復されるのではと期待した。前立腺癌に使う薬は3種類しかなく、後になるほど、副作用も強くなると聞いた。1年ほどは薬の効果もあってか、わりとゆったりと穏便に過ごせた。3か月に1回、病院に行き、薬を貰って、食事をして施設に戻る。同じ薬を使っていると、効果は薄くなる。痛みは 痛み止めを服用していれば、それほど感じなかったようだ。1回目の薬の効き目が減少する日がやってきた。検査結果にも表れ始めた。生活にも支障が出始めた。夜トイレに行ったら、ベッドにあげれなくなった。その時粗相をしてしまったと施設から連絡が入った。その後入浴日でもなかったのに、お風呂に入れてくれた。痛がるので、いつも通っている病院に運ぼうと、連絡を入れたら、施設のかかりつけ医がいるので、そちらに連絡して、了解を得てほしいとの話だった。それは私が
「了解を得ました」と報告するのではなく、担当医と大きな病院の担当医が直接話す必要があるのだと言うことだった。さっそくかかりつけ病院に電話すると、主治医が今いないので、お返事できないと言うことだった。私設のスタッフが弟の様子を見かねて、救急車を要請してしまっていた。私は固定電話と携帯電話を駆使して、状況を変えるために奮闘した。
「もう救急車が施設に向かっています。お宅の病院の玄関に行きますよ」有難いことに、受け入れて貰えた。前立腺癌を診てっている病院にこの病院から行くとき、車を手配してくれた。もう歩けないのでこの親切には、助かったし感謝の気持ちでいっぱいだった。