弟パート3

 母の1周忌がまじかに迫ってきた。この時期に下の弟の借金が発覚した。父は泣くばかりで、何が起こっているか把握がむつかしい。亡き母が

「これで 、たかもいいやあ。お金は全部返した」と生前、叔母に話していたと聞いた。叔母は住宅ローンも返済が済んだのかとの理解だったという。

母がずっと内緒にしていたので、私たちは弟が借金を繰り返していた事。それを母が返済していたとの事実を知らなかった。母では負担しきれなくなった後で父に打ち明け、あろうことか父もも参戦した。表面上の安定を演じてきたことが、どんな結果をもたらすか、私は巻き込まれ、目いっぱい体験することになった。

父母はとにかく見栄えのいい現実を大切にしてきた。借金も返してやれば、それで済むと思い込んでいたらしい。というか思い込みたかったのだと思う。

ローン会社にとってこんなにいい客はなかった。父が出かけて行って、カバンから現金を渡して返済していたという。そして負債がなくなると、カード会社から、若い女性が電話をかけてきて、

「完済されましたので、お客様には、現在これくらいお貸しできます」

というのだと弟から聞いた。前の限度額よりアップしている。

「これだけお貸しできるのも。お客様が甲斐性があるからですよ」

おだてられて、弟は綺麗なお姉ちゃんがいる店に駆け付けたと想像される。甲斐性があるところを見せたくて、再び限度額いっぱい借りたことだろう。返済が遅れると、怖い系のお兄ちゃんが、自宅までくるのだという。こうして弟は自宅まで担保にいれて、借りるだけ借りまくった。父は

「弟の妻が、お金を隠しているんではないか」と言った。酒を浴びるほど飲み、お金のある間はちやほやしてくれる女性がいるお店に頻繁に通っていれば、お金は使える。弟から聞き出したところによると、お店にはVIP席があって、そこにいつも案内されていたようだ。

お気に入りの女性の、貸し倒れ金まで

「俺がはらってやらあ」と大判振る舞いだったという。

母が亡くなったことで、弟も言動が変化するのではないかと期待したが、夢になった。

父に頼まれ母の写真を額に入れて、

「供養してね」と弟に渡した。

「お母ちゃんは、俺が守る」ときっぱり宣言して、父の涙腺を緩くした。弟は言葉だけなら、立派なことをいくらでも言える。ただそれを現実に移す能力が低かった。努力もしてないように見えた。

跡取りの弟が怒るのも当然だと思う。

「金融会社は、その家の資産まで調査する。悪くすれば借金まで背負わされる。それで潰れた代々の家も少なからずある」と跡取りは言った。

すでに狩られる獲物に認定されているのだ。テレビで見たことがある。捕食側は、ただ一匹に狙いを定める。子供だったり、怪我をしていたり、弱っている相手を品定めする。追いかけ始めると、他には目向きもせず、狙った相手をひたすら追い詰めるのだ。弟はあちこちから借りていたので、捕食側は一つではない。この時点で、もう一つの捕食者に気が付けていなかった。信用しきっていたし、まさかそんなことをする人だとは思わなかったから。

もう債務整理で弟の家を手放して、ブラックリストに載せてもらって、新たな借金が出来ないようにするしかない。私と跡取り弟はその点で一致し、弁護士を依頼し、跡取り弟が債務整理、私が九州の病院のアルコール病棟への道筋をつけて、世話をすることになった。父は

「もう一度だけ助けてやりたい」と泣いた。私への対応とは、雲泥の差がある。


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