「切り絵で世界旅」ベレンの塔(リスボン/ポルトガル)大航海時代の栄華の記憶をとどめる要塞
司馬遼太郎が、貴婦人がドレスの裾を広げている姿に例えて、「テージョ川の貴婦人」と表現したベレンの塔。時間の都合で中には入っていないが、外から大航海時代の象徴的な存在をうっとりと眺めていた。
ベレンの塔は16世紀にマヌエル1世によってバスコダ・ガマの世界一周の偉業を記念して作られたテージョ川の船の出入りを監視するための要塞。建築様式はマヌエル様式(マヌエル1世統治期(1495‐1521)のゴシック建築様式)で、過剰装飾が特徴だ。イスラム様式のほか、海洋国らしくモロッコやインドの影響も見られ、船具や海産物などのモチーフも多用されている。
マヌエル様式といえばジェロニモス修道院がその代表例だが、実際に見るとその広大さと豪華さは桁外れであった。
こうした建築様式が可能となったのは、ひとえにポルトガルが大航海時代にいち早く乗り出し、海外交易で得た莫大な利益があったからだ。そして王室は自らの富を誇示するかのように過剰ともいえる装飾を施した建物を多く建てていった。
だがポルトガルは絢爛豪華な建築物を建てるばかりで、産業育成に興味を持たなかったようだ。だから没落も早かった。イギリスのように産業革命を起こすこともなく黄昏ていった。イソップ童話に出てくるアリとキリギリスの話に似ていなくもない。