「切り絵で世界旅」市街地のビル(香港/中国)ビルの窓部分に増改築を重ねる香港の逞しさ
中国に返還される10年前の1987年、香港に初めて行った。この時、よくばりすぎて香港、シンガポール、タイの3カ国周遊にしたため、いずれの国も駆け足状態でじっくりと味わうことができなかったのが、残念でならない。中でも一番後悔しているのが、香港で九龍城を見ることができなかったことだ。
九龍城とは、九龍城地区に建てられた巨大なスラム街を指す呼称である。中国大陸からなだれ込んだ流民たちがバラックを建設。その後、無計画な増築による複雑な建築構造と、どの国の主権も及ばずに放置された環境から「東洋のカスバ」と呼ばれ、アジアン・カオスの象徴的存在になっていた。当時の写真をみると、その外観の異様さに誰もが度肝を抜れるに違いない。
その九龍城も香港政庁から1987年に取り壊す方針が発表され、1993年から1994年にかけて取り壊し工事が行われた。今となっては永久にナマ九龍城を見ることはできない。
そこで九龍城のかわりに香港の市街地のビル群を切り絵の作品にした。世界最大級の人口密度を誇る香港では、ビルは縦にどんどん伸びる。さらに少しでも有効に使おうと窓部分が増築されている。この「はみ出し感」が香港の逞しさを実感させるのだった。
<旅行日/1987.11.04>