鹿児島の白黒ネコ
沖縄から鹿児島へ帰省して真っ先にでっかい桜島を見た。
故郷に帰ってきたって感じがあっていい。
祖父母はもふもふのパジャマを着て、この土地の寒さをしのいでいる。
ばあちゃんはおしゃれなニット帽をプレゼントされて、にこにこしていて
90歳を超えているじいちゃんはカレーを一皿ぺろりと食べた。
兄貴は新婚旅行で京都を散策しているようだ。ほほえましい。
姉上とは昨日、ともに天文館のお菓子コーナーをふらふらした。
髪をバッサリ切っていて、似合っていて何だかびっくりして
似合っているとは言えなかったな。ラインで今言うのも変だよな。
オトンは疲れているが、ボジョレーヌーボーをなみなみ注いで
大酒食らっていた。デカいワイングラスだった。
姉と天文館をふらつきながら、いろんな話をした。
「夢はないの?」
「ない、何にも」
「書斎を持ちたいとかさ。私は猫と犬と暮らしたいな」
「おれは何もないな。全部あきらめた。諦められる夢は諦めようと思って」
「じゃあ諦められないものはある?」
「ないね」
「なにそれ」
鹿児島は地元だからか、落ち着くし、見知った土地に来たって
感じがする。知らない人になぜか親近感が湧きそうになる不思議。
帰り道に、猫を見た。白黒のツートンカラーの大きな猫。
写真を撮って姉に送ろうと思ったがやめた。
少し前、猫が触れないんだよね、と話をした女の子のことを思い出した。
噛まれそうだから、触れないんだ、と言ったら、
私は噛まないよ、とその子が言った。
今でも、猫は見るだけにしている。
触れば、きっと噛まれる気がする。
もふもふしているけど、おれのことだけはきっと噛む気がするのだ。