クリスマスには国旗が付いた爪楊枝!
「朝晩は、特に寒くなった」
年齢と季節のせいだろう、夜中に何度かトイレに行く回数が増えた。もうじき一年が終わろうとしている。外に出るのに何枚も洋服を重ねなければならない。駅前や表通りにはイルミネーションが点灯され、年末の物悲しさの中でも気持ちを幾分かは明るくさせてくれている。ショッピングモールに入ると、飾り付けられた大きめなクリスマスツリーが入り口に置かれ、それに合わせて心が温まるような軽やかな音楽が耳から胸の奥へと流れてくる。
子供の頃はショッピングモールなんて便利なものはなかったが、ダイエーや西友といった大型のスーパーが駅の近くにあり、兄弟そろって母親に連れられては自転車に乗って買い物に出かけたものだ。普段は地下にある食料品売り場がメインなのだが、十二月にもなると建物の二階か三階かは忘れたが母親は玩具売り場へと足を運んでくれた。そう、クリスマスプレゼントを買ってもらうのだ。
そこは沢山の玩具が所狭しと並べられ、この時期だけは赤、白、緑で飾り付けられた特別なコーナー。店内に楽しそうなクリスマスソングが流れている。きっと海賊が金、銀、財宝が輝く宝物の部屋を見つけたそれと似ているのだろう。
大きな箱に入った様々な種類のボードゲーム、テレビで放送中のキャラクターの超合金。スーパーカーのラジコンカーなんかは本物そっくりでとても魅力的だし、足に装着するローラースケートなんかも売っていた。
それは迷う。正直言ってここにあるもの全てが欲しいのだから、とてもひとつになんかには決められやしない。もちろん兄や弟が何を買うのかも考慮しなければいけない。兄がラジコンカーを選ぼうものなら、それに合わせないと必ず後悔をする。他人の物はいつだって魅力的だからね。自分がラジコンカーをやりたくなっても、兄だってしばらくは当然貸してはくれないし、ラジコンカーみたいな玩具は競争をしたりと大人数でやる方が楽しいものだ。そうなるともう体が熱くなり楽し気なクリスマスソングなんかは聴こえやしない。それでもそんなときの母親は、けっして嫌な顔をせずにずっと待っていてくれた。
迷いながらもなんとかひとつに決めて、最上階のレストランでお子様ランチを頼む。あの頃のお子様ランチとは、いったいどんなおかずが付いていたのだろう? ハンバーグ? それとも唐揚げとかかな? 今でも覚えているのは丸められたご飯に刺さっていた国旗が付いた楊枝だけ。その旗が付いた楊枝を僕らは必ず持ち帰る。家に帰ると肝心のプレゼントはクリスマスまで押し入れの中で保管された。手元には幸せがいっぱい詰まった爪楊枝。それが十二月の想い出だ。
今年の冬もショッピングモールは楽し気だ。歳を重ねた今では玩具売り場に行くことは殆どないのだけれど。
「……これでいいかな」
先日、父親と久しぶりに一緒に出かけたときにとても寒そうにしていたので「着るなら昔の生地が薄い股引きみたいのではなくて、最近の肌着の方が機能性があって温かいよ」と教えたのだが、どうせ自分では買わないのだろう。裏起毛だのなんだのと書いてある肌着を上下二枚ずつ買って店を出た。
ショッピングモールを出るときに、大きめの袋を持った子供が楽しそうに母親の顔を見て話しているのを見て、昔のそんな想いが僕の胸に溢れてきた。
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