思えば遠くへ来たもんだ
たまに帰って、実家を掃除していると思わぬ物を見つけて感傷に浸ったり、記憶がかなり鮮明に蘇ることがある。写真なんかは言わずもがなですが、それが一枚のビニールシートだったり、押入れの茶箱から出てきた父親のジャンバーや、天袋を開けた時に出てきた麦わら帽子なんかに隠れている。
「あっ、これ子供の頃に海で使っていたシートだ!」
「これって確か、親父がよく被っていた麦わら帽子だよな」
という具合に。まぁ実家はゴミ屋敷と化しているから、何十年も前の物がゴミと一緒にゴロゴロしているので、そんな物に触れるのが当たり前なのだが……。それでも想い出に触れると掃除をする手を止めて、そのまま何処かに旅立ってしまう時がある。
車が写った写真なんかを見ると「そういえば小さい頃は、こんな車が走っていたよな……」なんて、そのまま色あせた写真の中に取り込まれてしまう。そこには三輪の車や昔のセリカやスカイラインなんかが走っている。オートバイもヘルメットなんか被ってやいやしない。そもそもあんまり大きな道路が無かったような気がするし……。アスファルト舗装でもなかった。道の両側にはドブがあったし。
そんなことを考えていても、すぐに現実が引き戻してくれる。今では、しっかり閉まらなくなった実家の窓からは、冷たい風が入ってくる。
中学校の頃だったか……、高校生の頃だったかな。「思えば遠くへ来たもんだ」というドラマが放送されていて、好きで毎週見ていた。ドラマのタイトルは武田鉄矢さんの海援隊というグループが歌っていた曲からなのだが、ドラマは古谷一行さんが先生役で夏目漱石の「坊ちゃん」みたいな話だったと記憶している。主題歌も古谷一行さんが歌っていて、ドラマ同様に好きだった。この曲はよくカラオケでも歌ったものだ。
思えば遠くへ来たもんだ……。歳を重ねると、そう思うことが多い。あっという間、気が付いたら此処にいる。知らぬ間にこんな遠くに……、なんて思うことがしばしば。
月日は何もしなくとも過ぎていく。
ちょっと現在でジタバタしないと、この場所をのちの記憶に刻まないといけない。そう思った。
そうしないと病院のベットの上で「思えば遠くへ来たもんだ」なんて最期に想いを返す時、10代20代、30代40代の楽しかった頃だけの記憶をかき集めることになる。
新しいことを始めるのには厳しい歳だが、久しぶりに机の上で本とノートを開いて勉強をしよう。
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