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【私史】記憶に薄い初カレ

 今泉力哉監督の映画『街の上で』は、私の好きな作品だ。この前久しぶりに観直した。作中に、長い2人の掛け合いのシーンがワンカットであるのだが、その中でこんなセリフが出てくる。

男女2人。
過去の恋愛について深掘りする場面。

「今までどんな人と付き合ったか」という内容だ


「最初の彼氏はいいや、特に話すことないから。」

「付き合っても、話したくないような相手がいるんだとしたら雪(元カノ)にとっての俺もそういう人の1人だったのかなって思っただけ」



私はめちゃめちゃ心当たりがあるのだ。



もずく酢ちゃんはいいや、特に話すことないから。 

と言われそうな心当たりがあるのだ。


 今までうっすらとした記憶の中にあった、初めてできた彼氏と過ごした出来事が、急にはっきり見えてくるような気がしたのである。たぶんもうほとんどを取りこぼして覚えていないけれど、ちょっと思い出したから書いてみる。

 アタイに初めて彼氏ができたのは、大学1年生の時である。恋人だった期間はたった1ヶ月だったけれど、面白い人だった気がする。本当に趣味が合わなかった。なんの話をしていたのか思い出せないが、共通の話題がほとんどなくて、好みが合わなかった。

 カーゴパンツにスウェットみたいな服を着る人がタイプだったけど、彼は全く服に興味がなく、肌着みたいなインナーをトップスとして着てきた。
「それって下着じゃないん?」と聞いたら、驚いて、そのまま服屋に直行した。 

 誰よりも先に『鬼滅の刃』にどハマりしており、
「もずく酢も読んだほうがいいよ‼️」とよく言っていたのを覚えている。興味など皆無だったので、その時は一冊も読んでいなかったけど、のちにこんなに大流行する漫画に目をつけていたとは…悔しい…と無限列車編の映画が決まった時に思った。

 彼はガソリンスタンドの夜勤バイトをしていた。今思えば多分ワンオペだったのか、お客さんが来ない時はよくビデオ通話をしていた。本当にビデオ通話が苦手だったので、ほぼ向こうだけがビデオをつけて、ひたすら変顔をしてゲラゲラ笑うというくだりを繰り返していた。特に『しんちゃんの映画に出てくる脇役の顔真似』というのが傑作で、よく頼んでしてもらった。

 彼はバイクが大好きで、しょっちゅう友達とツーリングに出かけていた。広島のお土産にもみじ饅頭を買ってきてくれたのだが、「ごめん…賞味期限が間に合わなかった…」と言われた。賞味期限を逆算して買い物とかできないタイプだ…と思った。

 初デートで観た『天気の子』が面白くなかった。ガッツリ寝てしまい、ヤバ!!初デートで寝るのとか最悪…と思って隣を見たら私より爆睡していた。

 愛情表現は全くなく、今思えば本当に好きでいてくれたのかさえ自信が無いが、とても愉快な毎日で面白かったことだけは自信がある。共通の友達もいないので、今は何をしているかも、どこにいるかも、何にもわからないし、全く気にならない。でもここまであまりに情報がないと、あの人は幻だったのでは?本当に実在したのか…?という気持ちになる。


もずく酢ちゃんはいいや、特に話すことないから。
きっと今カノに、そう言っているに違いない。

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