ディムラマを食べにヴァタニムへ
2020年4月、新型コロナウイルスに対してまだ世間が疲れ切っていなかったころ、キルギス・ウズベキスタン料理専門店のヴァタニムは高田馬場から新井薬師に移転した。
私が実際に訪れることができたのは6月頃で、周りの中央アジア好きの面々よりは少し出遅れていた。私はいつも、何をやるにも出遅れる。私が他の誰かよりも早くできることなんてこの世には1つも存在しない。
店舗営業がまともにできない中、飲食産業はテイクアウトと出前に活路を見出していた。新井薬師の薬師あいロードにおいても店の軒先にテイクアウトのメニューが張り出されていて、店内で過ごす客はほとんどいなかった。
その日は晴れていて、梅雨の気配と初夏のざわつきが街に溢れていた。軒先に店員が出てお弁当やなんかを売る中を家族連れやカップルがノロノロと道を歩くさまは、真昼間に永遠に終わらないお祭りが開かれているように見えた。
私は日焼け止めを切らして長袖のパーカーを着てきたことを後悔していた。マスクの中はじっとり汗をかき、2日お風呂に入ってない頭皮は私に不快感を強く覚えさせた。いくらテイクアウトとはいえ、お風呂に入らずに飲食店に赴くことは、風俗の即即店にお風呂に入らないで行くことと同義であろう。普段あんなに叩いている糞客に私は成り果てていた。
一度店を通り過ぎた。よく、どんなに歩いても目的地につかないことがある。その日もそんな日で、私はそのあと2回店を見失った。これは店が悪いのではなく、私が方向音痴で注意散漫なことが原因である。ようやく入れた店に客は1人もおらず、私が吃りながら注文する声が響いて気持ちが悪かった。自分の声を聞きながら注文を済ませたあと、椅子に座ってぼーっとしていると中央アジア人らしい顔立ちをした団体が入店して座敷に座った。ようやく私の存在が店の中から薄れた気がして安心した。
完成した料理を持って、帰路についた。相変わらず外は人で溢れていて、新型コロナウイルスの流行が収まるのはだいぶ先だろうな、みんなごまかしごまかしルールの際をついて、自分に都合よく解釈し直して生活していく日々が続くんだろうな、と思った。
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