
【年齢文化】 敬語とため口を使いわけるために本当に大事なこと
韓国語の学習では、様々な語尾を暗記することが中心です。しかし、語尾をいくら覚えても、実際にどの場面で、どのような相手に使用するのかを理解していなければ、コミュニケーションは成立しません。場合によっては失礼な言動になることもあります。例えば、年齢が明らかに下の子どもに対して丁寧語を使うと、不自然に感じられることがあります。しかし、ため口を使うのも、そのタイミングや相手によっては難しいものです。こうした語尾の使い分けには、文法の正しい活用だけでなく、相手との関係性や状況を考慮する社会的なセンスが求められます。
韓国社会には年齢文化があり、年齢確認が行われているということはよく聞くかもしれません。この年齢文化では、相手の年齢や職位を考慮した語尾の選択が大事で、それができないと韓国語を喋れても喋れないのです。このことは極めて重要なのですが、韓国語学習ではほとんど強調されていません。
では、具体的にはどんなときに「敬語とため口」を使うのかを見ていきます。日韓は共に「敬語とため口」を使い分ける言語文化を持ちますが、実は同じシチュエーションでも、微妙な違いがみられます。実際に確認してみましょう。
敬語をいつ使うか
基本的に「敬語」は「初対面、親しくない人」に使う言葉です。「ため口」はその逆で、「気を使わない人」「親しみの表れ」として使っていますね。これは日韓の共通点でもあります。さらに敬語を使うシーンを具体的に思い浮かべれば、ビジネスシーンや接客シーンを挙げることできます。これも日韓の共通点です。
一方で、韓国では敬語は「年長者」に使う言葉です。もちろん日本でも年長者に使いますが、よく考えてみてください。親や祖父母に敬語を使いますか? 日本では年長者であっても親しみのある人に対しては敬語が崩れやすいといえます。
韓国でも、家庭内や親子間の会話では「親しみ」が優先されて敬語が崩れることはあるのですが、第三者に親や祖父母について話す時には、敬語を崩しません。この敬語を一貫して使い続ける感覚は、皇室に対する敬語と似ています。年上には、皇室の方と喋るようにしゃべると考えればいいかもしれません。
では、シチュエーション別に見ていきましょう!
【case1】おばあさんが警察官に

❶すみません。ちょっとお尋ねしたいのですが。
❷젊은 양반, 길 좀 묻자.
日本語では、相手が若い警察官であっても、いわゆる敬語に当たる「丁寧な言葉遣い」を一貫するでしょう。しかし、韓国では年齢秩序が言語選択に生かされます。これについては昨今変化も見られますが、基本的には自分より遥かに年下の警察官に敬語は不要です。「묻자:尋ねる/尋ねようか」という上からのため口でOKなのです。この言語選択における「すわりの良さ」の感覚は、日韓のフレーズを相互に翻訳してみると顕著です。
❶すみません。ちょっとお尋ねしたいのですが。
→죄송하지만, 잠시 여쭤보고 싶은데요.
❷젊은 양반, 길 좀 묻자.
→そこの若いの。道を聞こうか。
韓国語は不必要に丁寧すぎるし、日本語は時代劇のようです。
【case2】医者がおじいさんに

次に、お医者さんが年配の患者にどんなことばを使うのかを見ていきましょう。日本では、敬語とタメ口の選択に、先生自身のキャラが大きく影響していると感じます。どんな患者にも親をこめてため口でとか、逆に誰にでも丁寧に敬語でなど。あるいは、会話の途中で敬語やため口が交ぜることも多いです。
では、韓国語の場合は?
❶田中さん、調子はどうですか?具合悪いのはいつから?
→다나카 씨, 상태는 어떠신가요? 어제부터 안 좋니?
❷어르신, 상태는 어떠신가요? 언제부터 그러셨어요?
→おじいさま、具合はいかがですか?いつからでいらっしゃいますか?
どうでしょうか。まず相手の呼称に大きな差があります。日本語では名字に「さん」呼びで十分丁寧な感じがします。しかし、韓国語で年長者を名前呼びするのは失礼な印象です。さらに、後半で混ざるため口は、かなり「偉そう」な印象です。もちろん韓国でもキャラによってはタメ口を使うことはあり得ますが、一般的には敬語が選ばれます。逆に韓国語を日本語訳してみると、不必要に丁寧で違和感があります。
【case3】先生が児童に

❶はい、みなさん注目してください。
→자 여러분 주목해 주세요.
❷자자 주목들 하자.
→さあさあ、お前たち注目しよう。
日本では、先生は児童とはタメ口で話しつつも教壇では丁寧語を使うこともあるかもしれません。一方で韓国の年齢文化では、「年上に敬語」であると同時に、「年下にはため語」という法則があるのです。ここは、日本との大きな違いです。なので、自分より遥かに年下である児童には「ため口」を使うのが基本でした。ただ、近年はこの厳格な上下関係をフラットに変えようとする考え方があり、「誰にでも丁寧語」文化が広がりつつあります。そのため、幼児や児童に向かって丁寧語で話す先生が増えているようです。
【case4】幼児が先生に

❶先生、食べ終わった?
→선생 다 먹었니?
❷선생님, 다 드셨서요?
→先生様、召し上がられましたか?
韓国では、幼児から敬語教育が始まります。そのため、幼児であっても基本的な敬語が話せます。「召し上がる」といった尊敬語を普通に使えて、最低でも丁寧語の요体にすることは皆できます。先生に向かって먹었어?/먹었니(食べた?)というタメ口で大人と話そうものなら、周りから注意されるでしょう。一方で、日本では幼児が先生に敬語を使える方が違和感がありますね。
幼児といえば、韓国でも人気のアニメである「クレヨンしんちゃん」で、しんのすけはお母さんを「みさえ」と名前呼びしています。「みさえ」は、韓国語吹き替えバージョンでは엄마(オンマ)とされています。韓国では、母親を名前呼びするなど冗談でもありえないためです。また、しんのすけの一人称は「オラ」ですが、韓国語吹き替えでは저(わたくし)という謙譲語。語尾もしっかり요体(です・ます調)で話しています。
【case5】生徒が先生に

❶消しゴム貸して。
→지우개 좀 빌려 주라.
❷쌤 지우개 좀 빌러 주세요.
→先生、消しゴム貸してください。
日韓ともに先生に対して敬語を使うのが基本ではあるでしょうが、高校生くらいになると、親しい先生に向かって、言葉を崩すこともあるでしょう。日本なら「消しゴム貸して」くらいの言い方はありえますね。こうした日本人の学生による「友達先生」扱いに、韓国人がカルチャーショックを受ける姿を、大学でも何度も目にしてきました。
ただ韓国でも、丁寧語を崩すのはNGですが、先生に対して気さくな言葉遣いも見られるようになりました。2000年代以降に登場した쌤という略称は、선생님(先生様)を省略した「フランクな呼び名」として使用されています。
【case6】不良が大人に

最後のシチュエーションです。
❶うっせえ、てめえ死にてえのか。
→닥쳐! 너 죽고 싶냐?
❷뭔데 상관이에요? 아저씨, 죽고 싶어요?
→どうして構うんですか。おじさん、死にたいんですか。
日本の不良であれば、大人相手でもため口が貫かれるでしょうが、ドラマなどを見ていると、韓国では敬語を崩さないケースも見られます。「年長者には敬語」の精神が染み付いているのです。「どうして構うんですか」などとすごまれると、微笑ましいですね(笑)。
まとめ
ということで今回は韓国社会に見られる年齢文化を色々な言語場から観察しました。文化的な背景がことばに宿っている世界を堪能していただけましたか?
韓国語の敬語とため口は、自分と相手の「年齢」で決まります。年上か、年下かがわからないとコミニュケーションできないのに、教科書では語尾の運用ばかり練習していて、シチュエーションによってどの言葉を選ぶべきかの解説が不十分です。ぜひ「いつ、どこで、誰に対して使うのか」というシチュエーションを意識して韓国語を聞いてみてください。